第46話 卵の正体

 翌朝起きてみると、カグヤがご機嫌で料理を作っていた。


 エプロンを身につけ、ポニテにし、鼻歌を歌っている。


「ふふふ〜ん、今日は〜何を作ろうかな〜クロウは〜何が好きかな〜? わ、私かな〜?」


 ……なんだ? あの可愛い生き物は?

 俺は気配を消して、カグヤに近づく。

 もちろん、側にいるハクには念を送る……静かにしてろと。


「ふふふ〜ん、後は……ニャア!?」


 カグヤが包丁などを持っていないことを確認し、後ろから、その小さな身体を優しく包み込んだ。


「カ、カグヤ……おはよう」


「にゃ、にゃ、にゃにしてるの!?」


「い、いやか?」


「ニャア!? い、イヤじゃないけど……はわわ……! ど、どうしよう!? 昨日、やりすぎたかしら!?」


 アワアワしてて可愛い……段々と、耳まで真っ赤になってくるし。

 離したくないという気持ちになるが、これ以上は俺がマズイ。

 だが俺とて、このままでは終われない……!

 国境の守護者、白き虎と恐れられた漢を見せてやる!


「……カグヤ、こっち向いてくれ」


「にゃい!? う、うん……」


 そのまま、カグヤにそっとキスをする……。


「んっ……」


 そして、ゆっくりと唇を離す。

すると、カグヤが俺をつきとはした!


「にゃ、にゃ〜!!」


「うおっ!? びっくりしたぁ……」


「ビックリはこっちのセリフよ〜! にゃにが起きたの!?」


「え、いや……また、していいって言ってたからな。まあ、してみた」


「い、言ったけど……はぅ」


「その、カグヤがイヤじゃなければ……毎日していいか?」


「ダ、ダメよ!」


 俺の心に感じたことないダメージが来る!

 ガハッ!? この俺が、こんなダメージを受けるとは……ドラゴンブレスよりきつい。

 俺は膝をつき、その場に崩れ落ちる。


「ち、違うのよ! イヤじゃなくて……ド、ド、ド……」


「ド? なんだ?」


「ドキドキしすぎて……心臓がもたないよぉ……」


 「ゴハッ!?」


違う意味でダメージが!

 深刻なダメージだ……お、落ち着け! 理性を保て!


「わ、わかった……我慢しよう。すまない、俺が性急すぎた。俺の気持ちを押し付けてしまったな……」。


「クロウ……二人に一回ならいいわ!」


「へ? ……い、いつだ? 朝? 夜?」


「そんなのわかんないわよ! クロウのばか——!」


「おい!? 待て!? 包丁は勘弁してくれ——!」


すると包丁を持って俺を追いかけるカグヤと一緒に、何故かハクまで追いかけてくる。


「お前までなんだ!?」


「グルル〜!」


 「いや、俺も遊んでじゃないから!」


 その後、なんとか生き残った俺は、朝食にありつくのだった。

 とりあえず、さっきのことはお互いに触れないことにした。


「さて……そろそろ行くか。早く、確かめないとな」


「これよね?」


 カグヤの腕の中には卵がある。

昨日も一緒に寝て、ずっと温めていたそうだ。


「ああ。鑑定できるかはわからないが、とりあえず行ってみよう」


「うん! 何が生まれるかなー」


いや、そもそもも生まれるかはわからないが……言うのはやめとくか。

 そして、以前ハクと契約した場所へ向かった。

受付で聞くと、すぐに支配人のブレナさんがやってくる。


「ブレナさん、突然すみません」


「これはこれは……何か、問題がございましたか?」


「いえ、ハクはよくやってくれています。な、ハク?」


ここはきちんと言っておかないとな。

ハクは、本当によくやってくれている。


「グルルー!」


「うむ、良好ですな……では、そちらですかな? お嬢さん?」


「は、はい! この卵を拾ったんですけど……なんの卵かわかりますか?」


「……少々お待ちを! 皆! 来てくれ! 意見が欲しい!」


卵を見るなり、ブレナさんの顔色が変わる。

 そして、ぞろぞろと人が集まってきた。


「これは……いや、まさか」


「でも、それ以外には……だとすると……」


「ただ、おかしくないか? それなら、アレを倒す必要が……」


「ま、まさか! 盗んできたんじゃないだろうな!?」


「マズイぞ!? 怒り狂ったドラゴンが都市にやってくる!」


 ……何か勘違いをされているな。

 すると、ブレナさんが神妙な顔つきで話しかけてくる。


「……クロウ様、ドラゴンと出会いましたか?」


「ええ、倒しましたけど」


俺の言葉に、その場にいる人たちの顔が驚愕に染まる。


「え!? 嘘でしょ!?」


「あんな若い子が、最強の魔物を……?」


「いや!森の王者がいるなら……」


「いや、俺一人で倒しましたね」


「「「「……………………」」」」


 驚きを通り越したのか、皆が口をパクパクさせて固まってしまう。

 いち早く、正気に戻ったブレナさんが動き出す。


「ゴホン! ハクドラを組み伏せるほどの実力者とはわかっていましたが……申し訳ありませんが、証拠はございますか?」


「ええ、もちろん」


 俺は魔法袋から、広い場所にドラゴンを出す。


「……間違いない、レッドドラゴンですな。この大きさなら、最低でも白銀等級クラス……」


「えっと……つまりは、どういうことなの?」


「これはお嬢さん、失礼いたしました。見間違いかと思ったので、全員の意見が欲しかったのです。それは……ドラゴンの卵に間違いないかと」


「……えぇ!? これ、ドラゴン!? ど、どうしよう!?」


 ……やはり、そうか。


 どうやら、俺の予感は的中したらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る