第44話 異変

 その後は、順調に魔の森を進んでいく。


 俺はオークや、上位種のボブゴブリンなどを倒す。


 ちなみに、ホブゴブリンは一回り大きくなったゴブリンのことだ。


 カグヤは薬草や果実を採取し、ハクが周りを警戒しつつカグヤを護衛している。


 何より……ハクがいることにより、安全に休息を取れるのが一番助かる。


「クロウ!これ食べてみて!」


「ん? おっ、サンドウィッチか」


 お昼休憩なのでカグヤは魔法袋から、サンドウィッチを差し出してくる。

 俺はそれに口を近づけ、そのままかぶり付く。


「うん、相変わらず美味い」


「ふぇ!? て、手で取ってよ!」


「す、すまん」


「べ、別にいいけど……あーん」


「お、おう……あーん」


 先程は無意識だったが、意識すると恥ずかしい。

 カグヤも、耳まで真っ赤になっているし。


「やはり美味いが……なんの肉だ?」


「オークよ。醤油とニンニクで、隠し味にりんごを絞って入れてみたの」


「それか、この甘みと酸味の正体は。なるほど、カグヤは料理上手になったんだな」


「えへへー、そうでしょ? い、いつでもこれでいけるわ!」


「はい? どこか行くのか?」


「そういう意味じゃないわよ!クロウのバカ!」


 すると何故が、肩を叩かれた。

 相変わらず、この辺はわからん。

 すると、ハクが首だけ動かしてくる。


「グルルー」


「おっ、悪い悪い。ほら、食べな」


「グルッ!」


 俺達の今の状態は、ハクが木を背にしてうつ伏せの状態で寝転がる。

 その長いフカフカの胴体に、俺とカグヤが寄りかかっている形だ。

 このおかけで、こうしてのんびりと食べていられるってわけだ。


「これなら安心して食べれるわね!」


「ハクは気配に敏感だから、敵が来てもすぐに気づくだろう。さらに、パスによって気づいたことがすぐに俺に伝わる」


「グルルー」


 ハクから『もっと褒めてとか、任せろ』という気持ちが伝わる。


「おう、ありがとな」


「なんて言ったの?」


「褒めてとか、俺に任せろってさ」


「ハク! 良い子! 頼りになるわ!」


「グルルー……」


 カグヤが顎の下を撫でると、ハクがうっとりした表情になる。

 こうしていると、ただの大きな猫って感じにしか見えん。

 英気を養った俺たちは、再び探索を続ける。


「この辺から気を引き締めていこう。おそらく、以前ドラゴンがいた場所に近い」


「わ、わかったわ……」


「グルルー」


 するとハクが、ガクヤの顔をペロッとする。


「わぁ!? 顔を舐めないでー!」


「なるほど、俺がついているか。先に言われてしまったな。ガクヤ、俺とハクがいるから安心しろ」


「グル!」


「う、うん!」


 意識を高めて、魔の森の奥にいく。

 こっから先は、銀等級以上の魔物しか出てこない。

 油断すれば、やられるのはこちらの方だ。


「グル……!」


「ほう? 俺より早く気づいたか。やはり、森の王者には敵わんか」


 ハクに少し遅れて、俺も気配に気づく。

 そして、森の奥から魔物が現れた。

 それは人型に近い姿をしているが、似ているのはそれだけだ。

 身長二メートル以上に逞しい身体、そして額から一本の角を生やしている。

 鬼のような顔を持ち、お伽話に出てくるような魔物だ。


「あ、あれって……オーガ? 悪いことすると、オーガがやってくるってやつ……」


「ああ、その話の元になった魔物だ。二足歩行の魔物としては、最強種と言われている」


 ただ、あれは普通のオーガだから銀等級だ。

 噂では、ジェネラルやキングは桁が違うらしい。


「ガァァァァァァ!」


「ひゃん!?」


 オーガの咆哮に、カグヤが尻餅をつく。

 同時に、俺やハクにもビリビリと圧が伝わってくる。


「中々の気迫に咆哮だ。だが、その行動は万死に値する……ハク! カグヤを頼むぞ!」


「グルッ!」


 よし、これでカグヤは安全だ。

 俺も、久々に何も気にせずに戦える。


「ふむ……良い機会か」

 

 強くなるために、もう一段上にいかなくては。

 俺は剣を地面に置き、オーガに近づいていく。


「ク、クロウ!?」


「大丈夫だ、そこで安心して見ててくれ」


 魔力を、身体中にくまなく通す。

 全身を強化し、剣すら通さないイメージをしろ。


「ガァァ?」


「よう、強い肉体が持ち味なんだろう? 殴り合いといこうか!」


「ガァァ!」


「ハァァ!」


 俺とオーガの拳と拳が激突する。

 すると、押し返されたオーガが驚きの表情を浮かべた。


「カァ!?」


「人間と殴りあうのは初めてか!?」


 俺の右の拳が、オーガの腹にめり込む。

 相手は腹を手で押さえて、苦しそうにしている。


「ガァァァァ……!」


「そんなものか?」


「グ、グガァァァ!」


 怒りに任せて、オーガが拳の連打をしてくる。

 常人が喰らえば、木っ端微塵になりそうな拳をあえて受ける!


「ガァァァァァ! ……ガ?」


「……なるほど、通常種オーガならこの程度か」


 ダメージを負っていない俺の様子に怯えたのか、オーガが一歩下がる。

 これ以上の戦いは無意味だな。


「グガガ………」


「もう終いか——魔拳突き!」


「ゲハッ!?」


 俺の魔力の込めた正拳突きが、オーガの腹を貫通した。

 そして、オーガが仰向けに倒れこむ。


「よし、素手でも肉体強化すれば倒せるようだ」


「クロウ! 凄いわ! まるでエリゼみたい!」


「グルルー!」


「二人とも、ありがとな」


 よし、これは大きな収穫だ。

 今までは戦争や集団戦ばかりで、実戦さながらの稽古どころではなかった。

 だが、これなら鍛えつつも稼ぐこともできる。

 オーガなら、冒険者ランクも上がりやすくなるだろうし。


「さて……カグヤ、ハク、体力はどうだ?」


「まだ平気よ!」


「グルルー!」


「二人とも平気か。まあ、カグヤはいざとなればハクに乗ればいい」


 そのまま、奥に進んでいくが……少し経って異変に気付く。


「……おかしい」


「え? どういうこと?」


「静かすぎる……こんな奥なのに魔物もいない」


「グルル……!」


 ハクが『何か大きな気配がする』と伝えてくる。


「ハク?……どこからかわからないが、強い気配を感じるんだな?」


「グルッ!」


「ハ、ハクって、この森の王者なんでしょ? そのハクが強い気配を感じるって……」


「引き返した方がいいか? いや……遅かったか」


 なるほど、気づかないわけだ。

 俺とハクは、ほぼ同時に空を見上げる。


「ク、クロウ?」


「ハク! わかってるな!?」


「グルッ!」


 ハクが、すぐにカグヤの側に寄り添う。

 次の瞬間、空から何かが降ってきた。

 そいつは木々を倒しながら地面に倒れこむ。


「こいつは……ワイバーンか!」


 銀等級の魔物で、ドラゴンに似ているが似て非なる魔物だ。

 胴体は細いし、身体のほとんどを翼が占め、毒のある長い尻尾が特徴的な魔物である。

 ただ、数少ない空を飛ぶ魔物ということで、冒険者達から恐れられている。


……来たか」


「グルル……!」


 そして……空から赤い皮膚の大きな生き物が、ゆっくりと降下してくる。

 大きな翼、鋭い爪、ギョロッとした眼、俺さえも一飲みできそうな大きな口。

 体長五メートル超えで、見るものに畏怖を与えるその姿。


「ゴギャァァァァァ——!!」


 そう、完全なるドラゴンである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る