第43話 ハクの強さ

  ナイルが来た日から一夜明けた。


 あの後は、結局夜まで一緒に過ごしてしまった。


 さすがに泊まることはせず、後日改めて挨拶に来ると言い、自分の宿へ帰って行った。


 そんな俺達は気を取り直して、今日こそ冒険者ギルドへ向かう。


「ふえっくし! な、なんだ?」


「どうしたの?」


「グルルー?」


 突然くしゃみをした俺に、二人が怪訝な顔を見せる。

 風邪なども引いてないし、朝から俺は元気だった。


「いや、急に寒気が……」


「え?こんなに暖かいのに? ふふ、どこかでエリゼが見てたりね?」


「勘弁してくれ……今でこそ負けはしないが、トラウマに近いんだよ」


「アレ凄かったわよね……よく死ななかったわ」


「俺もそう思う。今考えるとやりすぎだよな。まあ、強くなれたから結果的には助かったけど」


 そのまま会話をしながら、冒険者ギルドの中に入る。

 もちろん、ハクも一緒なので……騒ぎになった。


「おい! アレ! 魔の森の王者だぞ!? テイムできた奴がいたのか!?」


「あれをテイムできたのは、確か……王弟殿下である、あの方以来じゃないか!?」


 「やれやれ……流石に目立つか。まあ、それならそれでいいか」


 カグヤには、ハクがついているという牽制になる。

 それにしても、相当強い魔物なのか。

 確かに、俺でも多少本気を出す必要があった。

 完全な大人になれば、カグヤを任せられるかもな。


「凄い人気ね!」


「グルルー!」


 ハクは得意げな表情で、まんざらでもない様子。

 パスからも『僕凄いんだよ!』という気持ちが伝わってきた。


「はいはい、凄いな。ほら、さっさと依頼を受けよう」


「そうね。あんまり目立つのもよくないもの」


「さて……今日はとりあえず、この間倒せなかったファイアウルフか」


 俺達は掲示板をそれぞれ眺める。

 期限は迫っているので、倒せないと依頼そのものが失敗になる。


「私は薬草系と……ん? これは何かしら?」


「どれどれ……へぇ、こういう仕事もあるのか」


 そこには、治療院にて光魔法の使い手募集と書いてある。

 怪我した人や、冒険者を治療する場所のようだ。


「ふーん……私、やってみたいかも」


「いいんじゃないか? 光魔法の特訓にもなるし、お金も稼げて一石二鳥だし」


「そうよね……よーし! やってみるわ!」


 その後、俺も適当に依頼を見繕い、受付で受理される。

 すぐにギルドを出て、都市の出口まで行ったら一度立ち止まる。


「さて……ハク」


「グル?」


「これから狩りにいく。そこで、お前の力を見せてもらおう」


「グルッ!」


『任せて!』という気持ちが伝わってきた。

 やる気は十分、後は実戦あるのみか。


「えっと、馬でいくの? ハクはどうしたら……」


「そうだな……早速、ハクの力を見せてもらおう。ハク、まずは体力や速さを知りたい。カグヤを乗せて走れるか?」


「グルルー」


 ハクが頷き、カグヤの手をペロペロと舐める。


「にゃにゃ!? くすぐったいわよー!」


「グルルー!」


「乗れってこと? わかったわ……よいしょっと……うわぁ、気持ちいい」


 寝そべるようにハクに乗ったカグヤは、ふわふわの毛に埋もれて幸せそうだ。

 この感じなら、あぶみも必要ないな。

 もし必要なら、後で考えればいい。


「ハク、俺が走るからついてこい。 ただし、カグヤを落とすなよ?」


「グル!」


 脚に魔力を送り、魔の森へ向けて駆け出す。

 その後を、ハクが追いかけてくる。


「キャー! ハク! 速いわ!」


「ほう? 見た目に反して速いな。これなら馬はいらなそうだ。あれも餌台や維持費が馬鹿にならない。後で、専門店に売りに行こう」


 俺も一から鍛錬したかったし、丁度いい機会だ。

 そして一時間ほどで、魔の森に到着する。

 俺はというと、丁度身体が温まってきたところだ。


「フゥ……体力も魔力も、一から鍛錬だな。やはり、サボってたツケか」


「グルルー?」


「おっ、体力あるな。全く疲れていないか」


 どうやら、体力は合格のようだ。

 すると、カグヤが俺に手を差し出す。


「ハク! 少し周り見てて! ク、クロウ!」


「ん? 手を出してどうした?」


「私の手を握りなさい!」


「あ、ああ……」


 よくわからないが、とりあえずカグヤの手を握る。

 すると、何か温かいものが流れてくる……これはアレか!


「ど、どう……? ちゃんとできてる?」


「ああ、流れ込んてくる……魔力譲渡だな?」


「そうよ。昨日、クロウに魔力の感じを教えてもらったから。そのおかげで、光魔法のエナジートランスファーを使えるかなと思ったのよ。今までは、コツがわからなかったけどね」


 魔力譲渡の魔法だが、扱い方は魔力そのものを相手に渡すことだ。

 原理的には、俺の魔力放出に近いものがある。

 なので、応用できたのだろう。


「なるほど……これは助かるな。カグヤ、俺のために考えてくれたんだな?」


「う、うん、これで役に立てるかなって」


「ありがとう、カグヤ。これで、遠慮なく戦える……何より、その気持ちが嬉しい」


「そ、そのかわり、ちゃんと守ってよね!?」


「もちろんだ。なあ、ハク?」


「グルッ!」


 その後、森の中へ進んでいくが……非常にやりやすい。


 ハクがカグヤを見てくれているから、俺は警戒に専念できる。


「あっ! これも! あっ! あれも!」


「グルルー」


 カグヤが興奮してあちこち行っても、ハクがぴったりとついていく。

 そんな中、俺の後ろから何かが近づいてくる。


「ガルル……!」


「ゲルル……!」


「……来たか」


 赤い皮膚の狼……ファイアウルフに相違ない。


「ハク!」


「グルッ!」


「にゃ!? どこに頭を突っ込んでのよ〜!?」


 ハクがカグヤの股下に顔を潜らせ、そのまま背中に乗せる。

 これで、目の前の敵に集中できる。


 「いや待て……別に、俺が倒さなくてもいいのか」


 俺の契約魔獣ということは、ハクが倒しても俺が倒したということだ。

 俺はファイアウルフを牽制しつつ、ハクの下まで下がる。

 そしてカグヤの手を取り、一旦下ろす。


「ハク、お前が倒せ。お前の力を見せてくれ」


「グルルー!」


 俺の言葉の意味を理解し、ファイアウルフ三匹とハクが対峙する。

 俺とカグヤは、少し離れて様子を見ることにした。

 痺れを切らしたのか、相手の方が動き出す。


「「「ガァァ!」」」


 三匹一斉に、火の玉を吐き出した。


「グルァー!」


「ガウッ!?」


 しかし、その全てをハクの水のブレスがかき消す。

 後出し尚且つ、ハクの方が威力があるということだ。


「グルッ!」


「ガァ!?」


 しかもその隙を突き、一瞬で距離を詰めて鋭い爪で一匹を切り裂いた。

 一撃で半身を切り裂かれ、一匹が絶命する。


「ガウッ!?」


「ギャウ!?」


 格上と気づいたのか、二匹が逃げようとする。

 四足歩行の魔物は総じて賢いというが、相手が悪かったな。

 ハクが木を利用して、三角飛びの要領で敵の逃げ道を塞ぐ。


「グルァ!」


「おっ、やるな」


「うん! すごいわ!」


 そして逃げ道を塞がれた二匹が、ダメ元でハクに襲いかかる。

 ハクはその二匹を、強靭なアゴで噛み砕く。

 そして、断末魔をあげる暇もなく……二匹が絶命する。


「グルァァァァァ!」


 「……これが、森の王者と呼ばれる所以か」


 今のように木々を利用し、更には登ることもできるだろう。


 うむ……これは、想像以上に頼りになりそうだ。

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