第39話 カグヤの特訓

 自主練を終えたが、まだ日が暮れるまで時間はある。


 なので、少し特訓をしようと思う。


 俺は、ハクの背中に寄りかかり休憩をしているカグヤに視線を向ける。


「カグヤ、魔力を放つ練習をしよう」


「うん?クロウみたいに?」


 カグヤは首を傾げている……可愛い。

 ハクも真似している……なんか、不思議と可愛く見えてきた。


「ゴホン……そうだ。俺までとはいかなくても、ある程度なら出来るはずだ。魔力があり、先入観がない。エリゼのことも、よく知っている。ならば、最低条件は満たしている」


「あの魔力の弾みたいなやつ……よく、クロウは追いかけられていたわ。たまにくらってたけど……アハハ! 思い出しちゃった!」


「笑い事じゃない。 何度死ぬかと思ったか……あの人、俺には容赦ないし」


 エリゼの魔力による指弾は、壁を貫通する威力がある。

 俺はそれを時に避け、時に弾き、時に食らっていた。

 ……よく、生きていたものだ。


「でも、エリゼは言ってたわよ? クロウがどんどん避けたり、同じ魔力で応戦したりするから楽しかったって」


「俺は楽しくない……まあ、感謝はしているが。ともかく、エリゼは徒手空拳の使い手だから、魔力の弾を指で打ち出していた。俺は剣を使っていたから、剣で練習して出来るようになった。カグヤは弓でいくなら……矢を魔力で作ってみるか」


「そうね。それなら、イメージしやすいかも」


  もう一つの理由として、それなら生物を殺す忌避感も減るだろう。

 直接生き物を殺す時の感触は、しらないに越したことはない。


「よし、早速やってみるか」


「うん! どうしたらいいの?」


「まずは弓を構えてくれ」


「……できたわ」


 カグヤが弓を構えるが、その姿は美しい。

 背筋が伸び、靡く赤髪にその綺麗な横顔に見惚れてしまう。


「魔力はわかるか?」


「うーん、感覚が光魔法とは違うのよね……」


「なら、これが一番早いか。カグヤ、失礼する」


 俺は後ろから、カグヤを抱きしめるような形になる。

 俺の両手で、カグヤの両手を握る形だ。


「にゃ!? ク、クロウ!?」


 まずい……なんだ、この良い匂いは……?

 落ち着け、俺……平常心だ。


「……落ち着けって」


「お、お、落ち着けないわよ!?」


 実は俺も落ち着いてはいない。

 するとハクが『僕も遊んでー』とでも言うように擦り寄ってくる。


「………ハク、違うから。あとで、遊んてやるから待ってなさい」


「グルルー!」


 ハクは大人しく下がり、芝生で寝始めた……だが、お陰で落ち着いた。

 カグヤは相変わらず、アワアワして耳まで赤いが。


「カグヤ、俺が今から魔力を高めるから、それを肌で感じ取れ」


「う、うん……が、頑張るわ!」


 ……まずは、俺が落ち着け。

 魔力制御は正常な状態でないといけない。

 ……よし、いけるな。


「どうだ?」


「あっ、んっ、なんか温かいわ……」


 すると、ガクヤが艶っぽい声を出す。

 ……ダメだ! よくない! 何かわからないが、これはよくない!

 俺は慌てて、カグヤから離れる。


「ど、どうしたの?」


「ゼェ、ゼェ……大丈夫だ、繊細な魔力制御に少し疲れただけだ」


「そ、そうなのね……もっとギュってしてもいいのに……」


「はい?なんだって?」


「な、なんでもないわよ! それより、わかった気がするわ!」


「ほっ、それは助かった」


 色々な意味で……あのままでは、俺の精神が参ってしまう。


「見てて! いつも魔力を変換する……でも、それをそのまま放つ感じで……えいっ!」


 そして、弓を引いている方の手が眩い光を放つ!

 風切り音がして壁に当たるが……。


「まあ、仕方あるまい。鍛錬あるのみだ」


「はぅ……全然、威力ないわね」


 魔力の矢は出たが、壁には大して傷もついてない。

 だが、ここは思い切り褒めるべきだろう。

 俺はガクヤの髪を両手でワシワシする。


「でも、できたな。偉いな! 凄いぞ!」


「ちょっと!? 髪がぐちゃぐちゃになっちゃうわよ〜!」


「グルルー!」


「ちょっと!? ハクまでやめて〜!」


 ハクがガクヤにじゃれつき、草むらの上に押し倒すのだった。

 その後、やりすぎたので二人で謝ることに。

 俺は正座、ハクも伏せをしている。


「べ、別に怒ってないし! その……楽しかったわ」


「グルルー!」


「うむ、懐いたようで何よりだ」


 俺の従魔ではあるが、メインはガクヤの護衛なのだから。

 すると、ガクヤが片付けを始める。

 空を見ると、日が暮れ始めていた。


「もう、夕方か」


「うん、だからご飯作るわね」


「だ、大丈夫か? 俺、死なないか?」


 小さい頃に、何度も食べさせられた。

 泥団子以外はどうにか食べたが、何度酷い目にあったことか。


「失礼ね……あの頃とは違うわよ!」


「そ、そうなのか……回復魔法あるから平気か」


「むぅ……ギャフンって言わせてあげるんだから」


 そう言いながら庭から部屋に戻り、エプロンを身に着けた。

 そして髪をまとめ、ポニーテールにする。


 「……グハッ!?」


 な、なんだ!? この破壊力は……!

 俺が動揺していると、カグヤは部屋の中でクルッと回転する。


「えへへ……似合うかな?」


「ああ、よく似合う」


「……あ、ありがとう」


 照れ顔の破壊力も凄まじく、俺は心臓が跳ね上がる。

 それを抑え込むためにひたすら素振りをしていると、あっという間に料理ができたようだ。

 対面の席に着き、目の前のカレーを食べる……どうやら、嘘ではなかったようだ。


「美味いな……」


「なんで複雑そうな顔なのよ? まあ、いいけど」


「ありがとう、美味しいよ」


「フ、フン! 初めからそういえばいいのよ!」


「グルルー!」


「あら? ハクも美味しい? お肉たっぷりあるからね!」


「グルッ!」


 ハクにはオークを解体して、その一部を与えている。

 ちなみに足を綺麗にして、部屋の中に入れてある。

 でないと、護衛の意味がない。


「フゥ、ご馳走さまでした。作ってくれてありがとな」


「お粗末様でした。これで、役に立ってるかしら? 私……クロウに何も返せてないわ」


 ポニテをイジりながら、そんなことを言い出した。

 ここで、そんなことないと言うことは簡単だ。

 だが、きっと……それではいけないのだろう。


「少しずつでいい、焦らなくていい……俺はいつまでも側にいる」


「クロウ……うん! ありがとう!」


「グルルー!」


「ハクもありがとう!」


 その後風呂に入り、寝る時間となる。

 当然、俺は別の部屋だ。


「ハク、カグヤを頼むぞ?」


「グルッ!」


「そ、そうね! 別々の部屋よね!」


「ああ、ハクがいれば安心だ。パスで繋がっているから、異常があればすぐに伝わる」


「うぅー……おやすみ!」


 なぜか、頬を膨らまして部屋に入った……さっぱりわからない。


 誰が、女心について助言をしてくれないだろうか?


 そんなことを考えてつつ、夜が更けていく。

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