第38話 ハクドラのハク

 とりあえず、従魔契約には成功したようだが……。


 こいつは、いつになったら舐めるのをやめるのだろうか?


「おい、いい加減にやめろって」


「グル?」


「グル?じゃない……舐めるのをや・め・ろ」


 少し怒気を強めて言うと、渋々といった感じで離れる。

 全く、身体中がベタベタになってしまった。


「グルルー」


「ハァ……まずは躾が必要か?」


「いえ、大丈夫ですよ。頭が良いですから。今は、ボスができて嬉しいのでしょう」


 すると、ドルパさんが言った。

 なるほど、今だけならいい。

 その時、檻の外でプルプルしているカグヤと目が合う。


「だ、大丈夫……? 噛まない……?」


「ホホ、もう大丈夫なはずです……が、不安でしょうね。すぐにても、契約を結びましょう」


 ドルパさんが中に入り、そこに魔法陣を描く。


「アレス殿、ここに血を一滴たらしてもらえますか?」


「わかりました……これでいいですか?」


「ええ、ありがとうございます。ハクドラ、この方と契約を結びたいなら魔法陣の上に乗ってください


 すると、ハクドラが魔法陣の上に乗る。


「では……汝、この者を主人と認めるか?」


「グルル!」


「では、血の盟約を結びなさい」


 そして魔法陣が光り輝き……消えていく。

 次の瞬間、感覚的にわかった。

 俺とハクドラの間に、魔力による繋がりができたことを。


「……成立しましたな」


「グルルー!」


「だから、舐めるなっての」


 パスを繋いだからか、相手の気持ちがダイレクトに伝わってくる。

 嬉しいとか、凄いとか、強いとか。

 その後、ようやく落ち着いたので支払いを済ませる。

 やはり安くはないので、ほほ手持ちの資金がなくなった。


「ただ、予想より安かったな。正直言って、借金も考えていたのですが」


「ほほっ、うちでも持て余していましたから。何より、これはまだ子どもなのですよ」


「この強さで子供……それは期待できますね」


 稼ぐためにも、こいつの力を知るためにも依頼を受けなくては。

 すると、柱の後ろに隠れていたカグヤが恐る恐る近づいてきた。

 うむ、こういうカグヤも可愛い。


「グルルー!」


「わぁ!? な、なんなの〜!?」


 ハクドラがカグヤにのしかかるが……ただ、じゃれているだけのようだ。

 現にガクヤは潰されてないし、パスからも手加減してるのが通じてくる。


「ただ、どういうことだ?」


「ホホ、クロウさん……相当、お嬢さんのことがお好きなようですな?」


「まあ、そうですね。それがどうかしましたか?」


「その気持ちが、パスを通じて伝わったのでしょう。主人の好きな人という形で。つまり、主人の好きな人に挨拶をしているのかと」


「あっ、なるほど。まあ、いいか……めちゃくちゃ可愛いし」


「クロウ〜! 見てないで助けてよ〜!」


「グルルー!」


 好きな子が獣と戯れる……まさしく、眼福である。

 ただ、相手は大きな虎だが。






 これにて無事にも契約も済み、とりあえず家に帰ることにする。


 しかし、カグヤは頬を膨らませてお怒りである。


 これはこれで可愛い……頬をツンツンしたらダメだろうか?


 ……これ以上、怒らせるのは得策ではないな。


「もう! クロウのバカ! フン!」


「ごめんよ、カグヤ。ほら、お前も」


「グルルー……」


 ハクドラがしょぼんとしながら、カグヤに向かって頭を下げた。


「仕方ないわ、許してあげる……ところで、名前はないの?」


「グル?」


「そうか、まずは名前か……白い虎」


「まるでクロウみたいね!」


 確かに、今の俺は白髪だ。

 もはや、元の黒髪に戻ることはないかもしれない。


「ああ、白き虎と呼ばれていたな。こいつは、ハクドラか」


「シロ?ドラ? ……ハク! ハクがいいわ!」


「グルルー!」


 すると、ハクドラが嬉しそうに駆け回る。


「どうやら、気に入ったみたいだな。安直だが、滅多にいないし名前がかぶることもないか。よし、今日からお前の名前はハクだ……わかったか?」


「グルルー!」


「ハク、よろしくね! というわけで……うわぁ……柔らかい」


 ずっと我慢してたのであろう。

 カグヤがハクの毛に寄りかかり埋もれる。


「グルルー」


「ふふ、フカフカね!」


 ……良かった。

 護衛だけでなく、癒しにもなってくれそうだ。

 その後、帰り道の屋台で食事を済ませてから家に帰宅する。

 俺は早速、庭に出てハクに説明をすることにした。


「ハク、よく聞け」


「グルッ!」


「俺の護衛は必要ない。俺は強い、わかるな?」


「グルルー」


 ハクがこくりと頷く。

 パスの効果もあるが、それなりに賢さもありそうだ。


「よし……というわけで、お前の仕事はカグヤの護衛だ。俺の最も大切な人にして、全てをかけて守りたい女性だ」


「にゃにゃ!? にゃに、にゅってんのよ!?」


 すると、カグヤが激しく背中を叩く。


「……何も間違ったこと言っていないが?」


「うぅー……」


「グルル?」


 ハクが理解したのか、カグヤに擦り寄る。


「そうだ、お前が優先すべきはカグヤだ。俺のことは二の次でいい。俺が死にそうでも、カグヤを守り抜け——これは命令だ」


「ちょっと!?」


「カグヤ、落ち着け。俺も死ぬつもりはない。ただ、傷を負うことはあるだろう。その時に、ハクが主人である俺を優先しないようにだ。そのためには、大袈裟なくらいがちょうどいい」


「ホッ……もう! ビックリしたじゃない!」


 俺はハクに念を送る。

 ……ハク、俺は本気だ。

 いざという時は、俺を見捨ててでもカグヤを守り抜け。


「グルル!」


「ど、どうしたのかしら? ハクが、急にシャキッとしたわ」


「さあな」


 よし、伝わったか。

 これで、カグヤを安心して戦場に出せる。

 もちろん、そんなことはさせたくない。

 だが、本人が望むのなら仕方ない。

 ならば……俺に出来るのは、その手助けをすることだ。


「ふーん……とにかく、これからよろしくね!」


「ハク、よろしく頼む」


「グルルー!」


 こうして我が家に、新しい家族が増えたのだった。

 その日の昼間は、リハビリの時間にした。

 カグヤは、久々の弓の練習。

 俺は寝込んでいたので、鈍った身体を動かす。

  ちなみに、ハクは庭でゴロゴロとしている。

 そんな中、カグヤが、時折近づき……。


「 ハク! にゃーにゃー」


「グル?」


「違うわ! にゃーにゃー」


「……ニャー?」


「ニャー! 可愛い!」


 いや、可愛いのはカグヤだろ……もう、これだけでハクの価値があるのでは?


 ……いやいや! 目的を見誤ってる場合か!

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