第33話 最悪の再会
俺はその光景が目に入った瞬間、頭を回転させる。
喚いても状況は変わらない、現実を受け入れろ。
「考えろ」
洗脳? いや、麻薬を使えば可能だが時間がかかる。
「裏切り……いや、その可能性は低い」
そうであるならば、タイミングがおかしすぎる。
「残るは脅されている……?」
となると人質……?
確か、アイツの大事な人は妹か。
「よし……一応、そういう想定で動くことにしよう」
もちろん、万が一裏切りの場合は……ナイルだろうと容赦はしない。
「その前に……貴様らを片す」
後ろから狙ってきた奴に、魔力を込めた裏拳をかます。
「ギギ!?」
横目で確認すると、顔面が陥没してピクピクしている。
それを見て、ナイルの顔がひきつった。
「さすが隊長です……まるで、後ろに目でもついてるみたいですね」
「クロウ……ごめんなさい!」
「カグヤ、お前が謝ることなど何もない。むしろ、すまない……俺の油断が招いた結果だ。さて、ナイル……どういうつもりだ? 答え次第では——お前でも許さん」
「とりあえず……失礼しますね!」
ナイルはナイフをしまい、カグヤに手刀を叩き込んだ。
ガクヤは気を失い、ぐったりしてしまう。
「カグヤ! ナイルゥゥゥ!」
「大丈夫ですよ、気を失っただけですから。さて、頃合いですかね……」
その瞬間、鳥のような甲高い鳴き声が響き渡る……!
「ピルルルルゥゥゥ!」
「チィ!? 耳が……!」
「すみませんが……とりあえず、逃げるとします。ここに書いてあるところに来てくださいね!」
するとナイフが放たれ、俺の目の前に転がる。
「逃すと思うか?」
「いえ、普通なら無理ですが……」
その瞬間、あちこちで唸り声がする。
「グガァァァ!」
「ギギャャャ!」
「ゲゲェェェ!」
刺客達が首を搔きむしり、苦しそうに悶えていた。
どう見ても、常軌を逸脱していた。
「なんだ!? 何をした!?」
「今、そいつらは狂人薬を飲みました。隊長でも、簡単にはいきませんよ?」
「アレを飲んだのか!」
狂人薬は、一時的に全ての身体能力が上がる丸薬のことだ。
ただ後遺症が残るため、使うには最悪死を覚悟しなくてはいけない。
戦場でどうしても勝てない時や、死ぬ間際に飲んだりする。
「では、隊長……失礼します」
ナイルは言葉を言い終わったあとに、黙って口を僅かに動かした。
そして僅かに右手を動かす。
それは俺達が、軍時代に奇襲を仕掛ける時のやり方だった……敵に気づかれないために。
「もしや、そういうことか……?」
そしてナイルは、馬を呼び走り去る……見上げると、その真上を何かが飛んでいた。
……とりあえず、カグヤがすぐに害されることはないようだ。
どうやら、俺をおびき寄せたいようだからな。
俺は意識を切り替え、目の前の狂人達と向き合う。
「グガァァァ!!」
「悪いが、すぐに終わらせる。俺は今——機嫌が悪い!」
魔力を限界まで高め、身体中の血を巡らせ体全体へ!
すると、俺の周りから溢れた魔力が可視化される。
「……これが本来の身体強化魔法だ」
これは俺が普段使っている魔力による身体強化とは違う。
身体を強化するだけでなく、体の限界を引き出す強化技だ。
この状態は魔力をかなり消費するが効果は絶大だ。
「まあ、お前達が飲んだ丸薬を薬なしでしたようなものだ」
ただ使い手のエリゼ曰く、これを使える人間は限られるそうだ。
強靭な精神力と、頑強な肉体の持ち主でないといけないらしい。
でないと正気を失い血管が破れ、身体中から血と魔力が溢れて暴発すると。
「キシャァァァァ!」
「ケケェェェェ!」
右側から、二人同時に剣を振り下ろしてくる。
その姿は先程より遅く見えた。
「はっ!」
水平にアスカロンを振り、二人同時に剣ごと身体を斬りとばす。
これで、二体の物言わぬ死体の出来上がりだ。
「ァァァァァ!」
「ヒヒィィィ!」
左側から、今度は二体が縦に並んで迫ってくる。
一人を盾にして、もう一人で仕留めるといったところか。
「だが……それでも甘い」
自ら接近し、アロンダイトを上段から思い切り振り下ろす。
「ペキャ!?」
「ブベェ!?」
相手の攻撃が届くより先に、俺の剣が二人を押し潰した。
斬るではなく、叩き潰すことに特化したアロンダイトならではの戦い方だ。
「残るは六人か」
騒ぎを聞きつけて、次々と人がやってきている。
時間もない……次の一撃で、終わりにするとしよう。
「すぅ……」
息を吸い込み、全身の魔力を二本の剣に込め、両腕をバッテンの形にして剣を構える。
危険を察知したのか、六人が一斉に襲いかかる。
「好都合だ——消えろ」
周りに被害が出ないように、敵をひきつけてから剣を振り抜く!
そして、六人の刺客達の手足や胴体が千切れ飛ぶ。
いくら此奴らでも、これではどうしようもない。
すると、ゼトさんが駆けつける。
「おい!? どうなっている!?」
「ゼトさん、申し訳ありません。少々、騒ぎを起こしてしまいました。ただ、今は後でお願いします」
「……わかった、幸い市民は死んでいないようだ。こちらで、後処理はしておこう」
「感謝します。では、失礼します」
俺は逸る心を抑え、ナイフの柄に巻かれた紙を見る。
「ここより北西に建物あり、そこに目印は置いておく。そこにくるがいい……楽しい余興を始めようだと?」
誰だか知らないが許さん……何より白分自身が許せない。
カグヤ、待っていてくれ——必ず助けにいく!
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