第32話 暗部との戦闘

 まずは、冷静に状況を把握する。


 ナイルの身体中から血が流れていた。


 それを後ろから追っているのは、全員が顔以外を覆う黒装束を着ている。


「暗部の連中か」


 暗部とは、国の諜報機関であり暗殺部隊でもある。

 孤児などを集め専門の訓練を強制的に受けさせ、そして洗脳に近い教育を受ける。

 生き残った者は、感情のない人間となり命令を聞くだけのただの人形と化す。


「つまりは、帝国の奴らか」


 奴らは皇帝の直轄組織である。

 皇帝から大まかな指示を受け、代々の宰相がそれに応じた命令を下す。

 それほどに、宰相というは重要な役職である。

 他国への潜入、国内の情報集め、要人の暗殺。


 「……そして最後に、罪人の始末だ」


 反逆者や逃亡者などが、これにあたる。

つまりナイルが追われているのは、俺のせいである可能性が高い。

状況を判断した俺は、ナイルを呼び寄せる。


「ナイル、こっちへ来い!」


「た、隊長! すみません! 情報を伝えるはずが……!」


 俺はナイルに駆け寄り、守るように前に出る。


「どういうことだ?」


「村々で情報を集め、隊長を探しておりました。隊長に暗部が迫っているとお伝えに来たのですが、私自身も狙われていたようなのです……申し訳ありません、私が連れてきてしまったようなものです」


「気にするな、いずれは来ると思っていた。むしろ、助かった……俺の予想より大分早い」


 何故、こんなに早い?

 俺の予想では、まだ猶予はあったはず……読みが甘かったか?

 それとも、誰かに後をつけられていた?

……いや、後ろは常に警戒していた。


 「いや、今はこいつらを全員始末しなくては」


 ここにいるという情報がいかないように。

すると、少し遅れてカグヤが駆け寄ってくる。


「クロウ……!」


「カグヤ、すまないがナイルを治してやってくれ」


「う、うん! わかったわ!」


「す、すみません……ウゥゥ……!」


「酷い傷……これは時間がかかりそうね」


ガクヤがナイルの治療に入ったのを横目で確認し、俺は剣を構えて敵と対峙する。

さて、俺は奴らを始末しよう。


「おい、貴様ら——一人も逃さんから覚悟しろ」


 といっても、こいつらに言葉が通じるかはわからないが。

 まともな教育は受けていない筈だ。


「シャー!」


「ケケケ!」

 

やはり言葉は通じないか。

 数は十人……一気に仕留める。


「では、こちらから行くぞ——魔刃剣!」


 アスカロンを振り下ろし、狙いをつけて剣技を放つ。


「「「ケケ!!」」」


「な!? 俺の魔刃剣を受け止めるだと!?」


 なんと奴らは複数人の斬撃により、俺の魔刃剣を相殺した。

 さすがは、精鋭揃いの暗部といったところか。

 俺も油断はできない……これは、本気を出す必要がある。


 「できれば、カグヤとナイルの側にいたいが……全力を出して、短期決戦を仕掛けるか」


 俺は右手にアスカロン、左手にアロンダイトを構える。

 そして、前に出てアスカロンで敵の一人に斬りかかる。

 敵が剣で受け止め、甲高い音が響き渡った。


「ほう?受け止めたか……だが」


「ギィ!?」


 腕に力を込め、そのまま押し切り……剣ごと一刀両断する。

剣を振り下ろした態勢を狙い、全方位から敵が迫ってきた。


「ケケー!」


「カカー!」


「甘い」


 右手で振り下ろしたアスカロンを起点として、身体を駒のように回転しさせて二本の剣を振るう。


「ゴハッ!」


「オゲェ!」


アスカロンに斬られた奴は真っ二つに、アロンダイトに潰された奴は骨が砕ける音がした。


「どうした? そんなものか!」


 残りは俺を囲むようにして、隙を伺っている。

 味方を犠牲にして、俺の動きを観察していたのかもしれない。

 厄介な連中だ……恐怖心もないらしい。


 「さて……まだまだ油断は出来ないな」


「キャッ!?」


「カグヤ、どうした!?」


 その声に俺は振り向き、光景を見て驚愕する。


 俺の目に映ったのは……カグヤを片腕の中に押さえ込み、首にナイフを突きつけているナイルの姿だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る