第31話 魔法の話と拠点探し

 依頼を報告した後、俺達は遅い昼食をとる。


 ついでなので、魔方について確認をすることにした。


「そういえば、魔法はどんなのが使えるんだ?」


「えーっと……傷を癒すヒールにハイヒール、毒や麻痺などの状態異常を治すキュア、アンデットや死者を弔うターンアンデット……くらいかしら」


「なるほど……攻撃系がないわけだ」


 魔法を使うには特殊な才能が必要だ。

 誰もが持つ魔力を、様々な属性に変換できること。

 魔法には火、水、地、風、光、闇がある。

 その中で、カグヤは光属性の適性があるようだ。

 

「覚えたかったけど、覚える時間が限られていたから。そんな暇あったら、お稽古や貴族間の集まりに出なさいって……」


「そうか……では、そちらも考えておくか」


 「結局、クロウは使えないのよね?」


「ああ、残念ながら」

 

 俺には魔力だけは豊富にあったが、変換ができなかった。

 なまじ魔力が多い分、コントロールが難しいのもある。

 なので、力任せに魔力を放つという剣技を覚えた。

 あえて名をつけるなら、無属性魔法といったところか。


「でも、魔力の剣を飛ばせるから平気よ。あれは、元々はエリゼの技よね? 小さい頃に、何度か見たことあるもの」


「ああ、エリゼが使っていたのを見様見真似でな。あの人は実戦でしか教えてくれなかったし」


 魔力を使った技はエリゼがよく使っていて、使い手はほとんどいないようだ。

 使うには豊富な魔力と、それに耐えられる肉体が必要だとか。

 そのために、俺は激しい鍛錬を積んできた。


「ふふ、いつもボロボロになってたわよね?」


「全くだ、何度死ぬかと思ったか」


「私、あれを見て回復魔法を覚えたいと思ったの。そしたら、光魔法の適性があって……」


 攻撃魔法を覚えなかった理由は俺のためでもあるらしい。

 相変わらず、優しい女の子だ。


「カグヤ……ありがとう。その気持ちが、俺はとても嬉しい」


「ほ、ほら! そろそろ行くわよ!」


「ククク……ああ、そうだな。では、次の店に行くとしよう」


 その後、耳まで真っ赤になったカグヤを連れて店を出る。

 食後がてらに歩きつつ、次は武器について話をする。


「それでね、クロウ。武器なんだけど、弓がいいかなって」


「そういえば、昔やっていたな。そして、俺はよく的にされてた……よく死ななかったものだ」


 アレは本当に危なかったから、思い出したくない。

 何回、身体のあちこちを掠めたことか……カグヤはお転婆だったからなぁ。


「そうだっけ?」


「やられた方は覚えてるんだよ!」


「アハハ! それもそうね!」


 まあ、楽しそうだからいいか。

 その後、ロレンソさんに教えてもらった場所へ行く。

 すると、中年の少し小太りした男性が対応してくれる。


「これはこれは、いらっしゃいませ。この都市で不動産業を営んでおります、ドルバと申します。本日は、どのようなご用件でしょうか?」


「突然すみません、実は家を探していまして……私はこういう者です」


 懐から冒険者カードを取り出す。

 これを見せれば、悪い扱いは受けないだろうと言われた。


「これは、失礼いたしました。その若さで鋼等級とは……都市を守ってくださり、ありがとうございます」


 そう言いながら、ドルバという方は頭を下げる。

 想像以上に冒険者は大事な役目らしい。


「いえ、まだ新人でして……ここにも来たばかりなのです」


「新人で鋼等級……いや、詳しくは聞きますまい。ただ、そちらの可愛らしいお嬢さんをみるに……騎士と令嬢の駆け落ちといったところですかな?」


「かっ、駆け落ち……! エヘヘ……」


 カグヤは何やら両手を頬に当て、モジモジしている。

 とりあえず、俺が話を進めよう。


「ええ、そのようなものです。それで、ロレンソさんからここに行くと良いと言われまして……」


「なんと、ギルマスの右腕と言われるロレンソ殿から……!? それはそれは、こちらも手が抜けませんな。無論、抜いたことなどありませんが」


 どうやら、有名な方だったようだ。

 ゼトさんといい、出会う人に恵まれてるな。


「それで、二人で住む家を探しているのです。部屋はそれぞれにあって共有場所もあり、周りに建物が少なく人通りが少ない。更には、見通しがの良く庭があれば助かります。大きい生き物も、そのうち飼いたいので」


「二人の家……エヘヘ」


「ホホホ、仲むずまじく良いですね。だいたい、いつ頃からお住まいになりたいとお考えでしょうか?」


「早ければ早いほど、助かりますね」


「なるほどなるほど……では、こちらの席で詳しいお話を伺いましょう」


 その後、上の空のカグヤを放って話を進める。

 予算やいつまで借りるのか、それとも買うのかなど。

 権利問題も含めて説明してもらい、話がすぐにまとまった。


「ひとまず、この条件で至急探させて頂きます。ご連絡は、ギルドでよろしいでしょうか?」


「ええ、それでお願いします」


「わかりました。では、また後日改めてお訪ねください」


「はい、本日はありがとうございました」


 話を終えたので、席を立とうするが……未だにカグヤは上の空だった。


「カグヤ? おーい、カグヤー?」


「でも、でも、二人っきりってこと? いや、でも……それって」


「やはり二人きりは嫌か? すまんな、部屋は別々だから安心していい」


 俺が顔を覗き込んで言うと、今度は耳が赤くなってくる。

 そして、俺の肩を叩く。


「ち、違うわよ! クロウのバカ〜!」


「……何故だ」


「ホホホ、仲が良くていいですな」


 そんなやりとりの後、店を出たら今後の予定を考える。

 まだ日が暮れていないので、動ける時間ではあった。


「カグヤ、体力は平気か?」


「大丈夫よ! 私、意外と体力はあるんだから!」


 そういい、両手の拳を握りしめて体の前に持ってくる。

 可愛いな……いや、今はそうじゃない。

 逃亡中も疲れたりはしていたが、倒れたり根をあげたりはしなかった。

 やはり、根性はあるのだろう。


「そうか……じゃあ、武器屋も行ってみるか。弓が良いとか言ってたしな」


「わかったわ!」


 そしてカグヤは、両手をブンブンと大きく振りながら前を歩く。

 後ろから見てても、ご機嫌なのが一目瞭然だった。


「……何やら、今日はずっとご機嫌だな?」


「ふぇ!? いや、えっと……楽しそうだなって。その、クロウと暮らすの……私、嫌じゃないからね?」


 そう言い、少し目を逸らしながら上目遣いをしていた。

 あまりの可愛さに、俺は膝をついてしまう。

 

「ぐはっ……!」


「え? え? ど、何処か痛いの!?」


「だ、大丈夫だ……恐ろしい」


「……変なクロウだわ」


 これで自覚がないのが一番怖い。

 二人暮らしになったら、俺の精神は保つだろうか。

 その後、気を取り直して歩いていると……こちらに向かって、誰かが走ってくる。

 その人物は、俺のよく知る男だった。


「まさか……あれはナイル!」


「それって昨日の!?」


「ああ、俺の恩人にして戦友だ」


 何故ここにいるかはわからないが、放っておくわけにはいかない。


 何故ならナイルは、黒ずくめの男達に追われていた。


あいつがいなければ、今頃俺は生きてはいない。


 ならば、今がその恩を返すときだろう。

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