第30話 問題を解決するには

 ……カグヤは豊富な魔力はある。


 つまり、魔物と契約する最低条件は満たしている。


 あとは、相性のいい奴がいればできるかもしれない。


 もしくは俺が契約して、カグヤを守るように命じればいいのか。


「さて……何はともかく、まずはギルドに行くか」


「そうね、依頼を確認してもらいましょう」


 そしてギルドに入り、受付に向かうと……いきなり受付の人が入れ替わった。

 後ろから、二十代後半くらいの細身の男性が現れる。

 眼鏡もかけており、知的な雰囲気のある人だ。


「クロウ様ですね? 初めまして、ロレンソと申します。今後は、私が対応させて頂きます」


「はぁ、初めまして。では、お願いします」


 俺はまず、魔法袋からりんごを取り出す。

 すると、ロレンソ殿の顔色が変わっていく。


「え!?こ、これは……!」


「あれ? 何か違うのかしら?」


「わからん。俺もこういうのは疎いからな」


 待っていると、手に持って観察をしていたロレンソ殿が顔を上げる。


「失礼いたしました……クロウ様、これの近くにはどんな魔物がいましたか?」


「レッサードラゴンがいましたね」


「となると、やはり……少々お待ちください」


 後ろに下がり、誰かと話している。

 そして、すぐに戻ってきた。


「確認がとれました。これは、依頼のりんごではありません」


「え!? じゃあ、失敗かぁ……頑張って勉強したのに」


「まあ、そういうこともあるさ。また、探しにいけばいい」


 すると、ロレンソ殿が首を横に振る。


「いえ、これは大成功と言いましょうか……依頼の物より値打ちがある物です。その名もドラップルと言い、ドラゴン系が好んで食べる高級食材です。そしてドラゴンをテイムしたい方々にとって、喉から手が出るほどの食材です」


「え!?そうなの!?」


「確かに……これを落としたら、ドラゴンが来たな」


 あいつは音に反応したわけではなく、落ちてきたりんごを目当てに来たってことか。

 もしくは、自分の餌場を取られまいと来た可能性もある。


「見た目はさほど変わりはないので、わからないのも無理はないかと。そして、魔の森の中心部から先でしか手に入りません。これ一つで、一般的な平民家族が二年は暮らせるかと」


「そ、そんなに!? もっと取っておけばよかったかな? 十個くらいしかないわ」


「いえ、一つの木に十個しかならないと決まっているのです。だから、尚更のこと価値があるのです」


「そうだったのね……クロウ、どうしよう? 十個だから、二十年は暮らせちゃうよ?」


 カグヤはオロオロして可愛い……いかんいかん、俺がしっかりせねば。

 カグヤはお金に関してはあまり詳しくないのだから。


「そうだな……ロレンソさん、これはどこで売ればいいですか?」


「私達に任せてもいいですが、専門の店に売った方が多少高く売れるかと思います」


 俺らには時間がない。

 流石に、今日明日には来ないだろうが、追っ手にも気をつけなくてはいけない。

 拠点を構えることが、まずは最優先だ。


「では、七つ売ります。こちらで売るので、その代わりに急いでもらえますか?」


「ええ、わかりました。では、他の素材も一緒に確認いたしましょう」


「結構な数が魔法袋にあるのですが……」


「なるほど……さすがは、期待の新人さんだ。では、こちらの部屋にどうぞ」


 ロレンソさんに案内され、広い空間の部屋に通される。


「ここにおいてくだされば、係りの者が処理や査定をします」


「わかりました」


 俺は魔法袋から、魔物達を取り出す。

 その数は多く、またロレンソ殿の顔色が変わる。


「こ、これは……今朝方に行ったばかりなのに。なるほど、ギルマスが私に任せるわけですね」


「少し張り切っちゃいました。ちなみに、時間はどのくらいかかりますか?」


「……ドラップルを含めると、明日の朝までにはどうにかできるかと思います」


「では、お願いします」


「お、お願いします!」


「ええ、お任せを。では、一度戻りましょう」


 戻る途中に、ロレンソさんに尋ねる。


「ロレンソさん、少しいいですか?」


「ええ、如何なさいましたか?」


「実は……家を買いたいのです」


「なるほど……では、そちらも手配しましょう」


「ありがとうございます」


「いえいえ、期待の新人さんですから」


 その後、ロレンソさんに任せて俺達はギルドを出る。


「ねえねえ、さっき何を話してたの?」


「いや、家を買おうかと思ってな」


「……二人暮らしって事?」


「ああ、そうなるな」


 今の宿でもいいが、できれば迷惑はかけたくない。

 一軒家であれば仕掛けもできるし、好き勝手に暴れても問題ない。

 そんなことを考えながら、ふと横を見ると……カグヤが中指同士をツンツンさせていた。


「そ、それって、同棲ってこと? い、今までも一緒には寝泊まりしてたけど……」


「どうした?」


「にゃい!? 別に!なんでもにゃいわ!」


 また猫になってる。

 あんまり突っ込むのも可哀想だからやめとくか。

 ……見れなくなったら残念だし。


「何か疑問があるなら答えるぞ? もしくは、勝手に話を進めたから怒っているのか?」


「ち、違うわ! それって、危険が迫ってるってこと?」


「それもある。後は、拠点が必要だろう」


 そうすれば、部屋も別々にできる。

 あの寝顔は反則だ……それもあって、俺は早朝に稽古をしていた。

 煩悩を振り払うために。


「……そっか、さっきのお金があれば買えるのね?」


「ああ、足りないということはないはずだ。とりあえず、今から見に行こう」


「え?どこかわかるの?」


「ああ、さっきロレンソさんに聞いておいた」


「いつの間に……偉いわ!」


「だから背中を叩くなって」


 指定された場所に向かっていると、再びカグヤが問いかけてきた。


「そういえば、なんで三つはとっておくの?」


「もしドラゴンと会ったとき用に取っておこうかと。うまくいけば、テイムできるかもしれん」


「そういうことね。それは、レッサードラゴンみたいな?」


「いや。あんなのは、本来ドラゴンなどと言えん。本物は恐ろしく強いし、翼もある。特に、上級ドラゴンは俺でも厳しいかもな」


「ク、クロウでも……それは、凄いわね……うーん、会いたくない気もするわ」


「安心しろ。カグヤが側にいるなら、俺が負けることなどあり得ない。カグヤは自分を足手纏いかと思っているかもしれないがそれは違う。大切なカグヤがいる方が、俺は強くなれる」


「そっ、そっか! じゃあ、側にいてあげるんだから!」


 するとカグヤは、スキップでもしそうな軽快な足取りで俺の前を歩きだす。


 できれば、このまま平穏に暮らしたい。


 だが、そういうわけにもいくまい。


 さて……色々と準備を進めなくては。

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