第29話 守るためには

 さて……まずは、相手の様子を見るとしよう。


 どんなに力の差があろうと、負ける時は負ける。


 俺の後ろには、カグヤがいる……確実な勝利を。


「ク、クロウ……」


「大丈夫だ、敵ではない。ただ初めての魔物だ……様子を見る」


 奴から視線を逸らさずにいると——何かくる。

 すると奴の口から、連続して水の玉が吐き出される!


「ゴパァァ!」


「名前の通りか……」


「きゃ!?」


 カグヤを抱えて、その場から跳躍する。

 そして、水の玉が木にぶつかり……木がへし折れる。


「うわぁ……木が折れちゃったわ」


「ふむ……当たった瞬間に弾ける性質を持っていて、威力はかなりある。当たれば、吹き飛ぶか何処かしらに怪我を負うだろう。速さもそれなり……流石は魔の森の魔物か」


「クロウ! また来るわ!」


 カグヤの言う通り、奴が口を開けて撃つ態勢に入る。

 おそらく、俺が避けたことでこれが効くと思ったのだろう。


「ゴパァァ!」


「はっ!」


 迫り来る水の玉を、剣で全てを叩き斬る。

 切った時、かなりの重さを感じた。


「シャー!?」


 奴は戸惑い、オロオロしている。

 避けると思ったのに、俺が打ち消したからだろう。

 ならば、ここで仕留める!


「魔刃剣!」


「ゲヒャー!?」


 胴体を真っ二つにされ、奴が生き絶える。


「鋼等級の魔物か……やはり、雑魚ではないな」


「そ、それに魔法みたいのを使ってきたわ」


「そうだな……そういえば、カグヤは攻撃魔法は覚えなかったのか? それとも、覚えられなかったのか?」


「私は覚えられなかったわ。特別、覚えたいとも思わなかったのだけれど……今は覚えたいと思う。そしたら、少しはクロウの助けになれるのに」


 俺がカグヤを守りたいという想いを、本人に押し付けてはいけない。

 カグヤがしたいなら、それを手助けするのも俺の役目であろう。


「……わかった。カグヤが戦う術を学びたいなら、俺は協力を惜しまない。俺に守られるだけでは、カグヤは嫌なのだろう?」


「そ、そうなの! もちろん、クロウみたいに強くはなれないけど……でも、そうしないと私は……クロウに対して一歩も踏み出せないから」


「そうか……わかった。では、帰ったら話し合うとしよう」


「クロウ……ありがとう!」


 その後、周囲を警戒しながら魔物を魔法袋に入れる。

 やはり便利だな……耳を切り取るのを、後回しにできるのは大きい。


「よし、進むとしよう」


「うん!」


 少し吹っ切れた表情になった。

 やはり俺に頼るばかりで、それを気にしていたようだ。

 俺のエゴで、カグヤを籠の鳥にすることだけはしてはいけない。

 その後も、出てくる魔物を始末しながら進んでいく。


「そろそろ、引き返した方がいいかもしれん」


「もう、そんな時間?」


「体感的に、お昼ぐらいにはなっているはず……いきなり頑張りすぎても良くないしな」


 すると、カグヤが何かに気づいたようだ。

 近くにある木に近づき、何やら観察をしている。


「これは確か……この木にリンゴがあるはずだわ!」


「そうなのか……俺には違いがわからん」


 俺には、同じような木々が並んでいるように見える。


「ほら!この葉っぱの色見て! 他のより緑が薄いわ!」


「……言われてみれば、たしかに。すごいな、カグヤ」


「エヘヘ、クロウに褒められた……嬉しい」


 可愛い……今なら、ドラゴンすら瞬殺できそうだ。


「さて、なら俺の出番か……ハァ!」


 木に向かい、正拳突きを放つ。

 バサバサという音と共に、上からりんごがいくつも降ってくる。


「わー! すごい! すごい! りんごがいっぱいあるわ!」


「これだけあれば沢山食べられるな」


「私、アップルパイ作るわ」


「アップルパイか……懐かしいな」


 それは生前の母上が良く作ってくれた思い出の食べ物だ。

 良くカグヤと一緒に食べていた。


「うん、懐かしい……」


「ただ、作れるのか?」


「むっ……作れるわよ……多分」


 指摘すると、口をもごもごさせる。

 これは中々に怪しいぞ。


「まあ、カグヤが作ったのならどんなものでも食べるさ」


「なんか、まるで酷いものしか作らないみたいじゃない!」


「おいおい、泥団子を食わせようとしたのは誰だ? そもそも、食い物ですらない」


「あ、あれはおままごとだもん!」


 そんな懐かしい話をしていると、無粋な輩が現れる。

 ズシーン、ズシーンと、大きな足音が聞こえてきた。

 おそらく、木が揺れる音を感じ取ったのだろう。


「なにかくるの?」


「そうみたいだな。カグヤ、回収は後にするぞ」


「う、うん!」


 再び、カグヤを左腕に収める。

 すると、森の奥からその生き物が正体を現す。

 どうやら、大物が釣れたようだ。

 

「来たか……」


「ク、クロウ……あ、あれがドラゴン……!」


 現れたのは、二メートルを超えるドラゴン。

 赤い皮膚をまとい、二足歩行で歩いてくる。

 爪は鋭く、牙も強靭、長い尻尾。

 そして翼がない……これがレッサードラゴンだ。


「まあ、俺にとってはただのトカゲだな」


「グァァ——!」


「きゃっ!? こ、怖い……!」


 カグヤは、俺の腰にしがみ付き震えている。

 俺にとってはトカゲであっても、カグヤにとってはそうではない。

 ドラゴンの鳴き声には、生物を恐怖させる力がある。


「お前の様子見はやめだ——カグヤを怖がらせるとは万死に値する」


「ブハァ!!」


 奴から、幅一メートルほどの火の玉が放たれる!


「ク、クロウ!」


「トカゲごときが——十字魔刃剣!」


 魔力を込めたアスカロンを水平に振る、そしてそのまま腕を上げて上段から振り下ろす。

 一つ目の斬撃に二つ目が追いつき十字になり、火の玉ごと奴を十字に切り裂く!


「グゲェ!?」


 やつは四分割に切り裂かれ、おもむろに地に伏せる。

 ドラゴンの生命力が高いとはいえ、これでは生きてはいまい。


「なに今の!? 色々な技があるのね!」


「まあな。戦う場所や相手、状況によって使い分けなくてはいけない。でないと、臨機応変な対応ができないからだ」


「クロウは凄いわね! 褒めてあげる!」


「お、おう……」


 急に頭を撫でられて、どうしていいのかわからない。

 なんだか、むず痒い……とりあえず、一生懸命に背伸びをしているカグヤは可愛い。


「クロウ、照れてる……エヘヘ」


「なんだかなぁ……ほら、そろそろ引き返すぞ」


「でも、他にも依頼あったわよね?」


「鋼等級最上位であるレッサードラゴンがいるということは、結構奥まで来ている。それより弱い奴や、バナナは最初の方にあるだろう。別のルートから引き返して、運が良ければ見つかるだろう」


「あっ、そういうことね」


 その後引き返しつつ、俺は依頼の魔物を仕留めていく。

 するとカグヤが、森の入り口付近でバナナが生っているのを発見する。


「あっ!こんな近くに……見逃してたわ」


「仕方あるまい、俺らはまだまだ素人だ。とりあえず、一度都市に戻ろう。ファイアウルフは、明日以降でも平気だ。流石に昼抜きは腹が減る」


「そうか……そうなると、お弁当みたいのも必要ね」


「幸い、魔法袋がある。行きに何か買って、それを入れておけばいい」


「ふんふん、私でも出来そうだわ……」


「ん? なにをするんだ?」


「フフーン……秘密よ!」


 なにやら、ご機嫌のようで何よりだ。

 その後、都市に戻ると……とある光景が目に入る。

 それを見て、カグヤが俺の服を引っ張る。


「クロウ! みてみて! ウルフ系の魔物が都市の中を歩いているわ!」


「ああ、あれは……そうか、そういう手もあるか」


「どういうこと?」


「あの国にはほとんど存在していなかったから、知らないのも無理はない。あれは、主従契約を結んだ魔物だ。魔力の紐を繋いで、あちらが認めたなら契約が成立する」


「なんでクロウは知ってるの?」


「ザラス王国では、割と盛んなはず。たまに戦場に出てきたが、テイマーっていうらしい。この国は魔の森に面しているから、盛んなのかもしれないな」


「それは、どんな魔物でも良いの?」


「いや……ある程度の知能がないと無理だったはず。こちらの言葉を理解して、実行できるくらいには」


 とりあえず、今回のことで実感した。


 カグヤを抱えながらでは、この先の強敵に苦戦するだろう。


 そもそも、カグヤの身体が俺の動きについていけまい。


 魔力を使った技をカグヤに教えてみるのは決まりだとして……従魔か。


 これは、カグヤを守る良い術を見つけたかもしれない。

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