第28話 魔の森
それから数日後、依頼を達成したカグヤは無事に鉄等級冒険者となった。
その傍、俺も順調に依頼をこなしてお金を稼いだ。
お陰で、未だに紹介して貰った宿に泊まることができている。
この宿は小さい庭もあるし風呂もあるから、出来れば変えたくはない。
そんなことを考えつつ、早朝の静寂の中で素振りをひたすら行う。
「フゥ……ひとまず、こんなものか」
もっと強くならなければ。
どんな理不尽なことからも、カグヤを守れるように。
これからが、ある意味で本番だ。
冒険者活動もしかり、追っ手にも注意を払わなくてはならない。
「クロウ……? いた!」
「カグヤ、おはよう」
振り返ると、宿の中からカグヤが出てくるところだった。
「おはよう! 起きたらいないから、不安になったじゃない……」
「それはすまん。最近、稽古をサボっていたからな。良い機会だから、もう一度基本から鍛え直そうかと……今よりもっと強くなるために」
「それって私のためよね……? 私は何をすれば良いかしら?」
俺は気にしないが、カグヤが気にしてしまうのだろう。
さて、どうしたものか。
「そうだな……今まで学んできたことを、紙に書き出してみるとか。そして、それらがどんなことに活かせるかを考える」
「今まで学んできたこと……確かに、採取では学んでいたことが役に立ったわね……わかった! 朝ご飯まで部屋で勉強してくる!」
そう言い、宿の中に戻っていった。
その顔からは、不安や焦りは少し消えていた。
「……良かった、少しずつ元気が出てきたか。やはり、カグヤには笑っていてほしいからな。そのためなら、俺はどんな苦労も厭わない」
さて、続きをするとしよう。
次は型の稽古を始める。
上段からの振り下ろし、そこからの逆袈裟。
下段からの振り上げ、振り下ろし。
最後は二本の剣を持ち、剣の勢いと体重移動により、流れるように剣を振るう。
そのまま三十分ほど稽古をした後、人々が起き出し活動し始める。
「さて、目立つのはあれだし風呂入って汗を流すか」
部屋に戻ると、カグヤが真剣な表情で机に向かっていた。
俺に気づいていないようなので、俺は黙って風呂に入る。
そして、ささっと風呂から出る。
「フゥ……スッキリしたな」
「クロウ? ……キャァァァァァ!?」
「なんだ!? 曲者か!?」
俺は咄嗟に無手で扉の方に向いて構えを取る。
しかし、そこには何もいなかった。
「なんだ、何もないじゃないか」
「曲者はアンタよ!? な、なんで上半身裸なのよ!?」
「いや、なんでって……風呂に入ったからだよ。それに、別に下は履いてるだろ」
「いつよ!? 私、知らない! いいから上も着て! これからはそうして!」
「そうか……配慮が足りなかったな。嫌な思いをさせて、すまない」
しまったな……まだ、戦場での暮らしの癖が抜けないようだ。
鍛錬の後は、いつもこの格好だったし。
カグヤは女の子だからな、気をつけなくては。
「ち、違うの! 嫌じゃないの! あの、えっと、ああもう——クロウのバカ〜!」
「おい! 待てって! 着るから! 一人でどっかに行くんじゃなーい!」
俺は慌てて着替え、カグヤを追いかけるのだった……。
その後、宿の入り口でオロオロしていたカグヤを捕まえ、そのまま食事をとることにする。
しかし、ガクヤはぶすっとしたまま不機嫌な様子だ。
「悪かったよ。ほら、これあげるから。目玉焼き好きだったろ?」
「好きじゃないし! こ、子供じゃないもん!」
「あれ? 違ったっけ? 昔、よくぶんどられた記憶があるんだが……まあ、好みも変わるか」
「……別に食べないなんて言ってないわよ」
そして、俺の分の目玉焼きを食べるのだった。
食事を済ませたら、どうにか機嫌を直したカグヤと共に、ギルドへ入る。
「さて……カグヤ」
「どうしたの?」
「今日から、本格的に稼ぐことにする。なので、魔の森に入ろうかと思う。必ず守り抜くから、一緒に来てくれるか? 流石に、カグヤを一人にしてはおけない」
「わ、わかったわ。私も出来るだけ頑張るから」
「ああ、無理はしなくていい」
話がまとまつたので、二人で掲示板を眺める。
「私は薬草系と、果物のリンゴやバナナを採ってきて、それを配達する……うん、これならできそう」
「俺は……オーク五匹、ゴブリン十匹、レッドウルフが三匹、ウォターキャットが一匹、最後はレッサードラゴンか……よし、これくらいにしておくか」
「随分たくさんね……大丈夫、無理してない? ド、ドラゴンって強いんでしょ?」
カグヤが少し不安そうに言った。
確かにドラゴンというのは、普通の人にとっては恐怖の対象だ。
「安心しろ、これくらいなら余裕だ。カグヤこそ、平気か?」
「そ、そうなのね。ちょっとドラゴンが怖いなって思っただけ……」
「大丈夫だ、下位のドラゴンなど俺の敵ではない。カグヤは安心して、俺に身を預けてくれ」
「身を預ける……! いざという時は任せるわ……私、全然わかんないだから」
カグヤは何故だかわからないが、両手で頬を押さえてモジモジしている。
どちらにしろ、不安を取り除かなくては。
「任せておけ、俺は熟練者だ」
「えぇ!? そうだったの!? クロウは経験済みなの? ……うぅー……」
「……なんの話だ? ドラゴンなら退治したことあるが」
「そ、そうよね! ドラゴンの話よね! ……行くわよ!」
……よくわからん。
依頼を受けたらカグヤを連れて、都市を出発する。
馬に乗り、魔の森に向かっていると、カグヤが話しかけてくる。
「クロウ、ご、ごめんなさい……」
「ん? ああ……さっきから様子が変なことか。気にするな、昔からよくあったことだ」
「何よ! 余裕こいちゃって!」
「おい!? 背中を叩くなって!」
そして、一時間かけて魔の森に到着した。
いつものように馬を預けたら最終確認をする。
「さて、カグヤ。ここからは、何があっても俺から離れるなよ?」
「わ、わかったわ!」
「よし……行くか」
警戒をしつつ、二人で魔の森に入っていく。
カグヤはあちこちの草を見て、楽しそうに採取している。
「あっ、これとこれ……えっと、こっちがあれかな?」
きっと自分にできることがあり、嬉しいのだと思う。
話を聞くと、自由のない生活を強いられていたようだし。
カグヤが楽しく安心して過ごせるように、俺が全てのものを蹴散らすとしよう。
「言ってるそばから来たか……カグヤ、敵がくるから側に」
「うん!」
事前の打ち合わせ通りに、カグヤが俺の側に来る。
すると、林の向こうから次々と魔物達がやってきた。
「ギャキャ!」
「ブヒー!」
「ゴブリン十匹以上に、オークが八匹か。さすがは魔の森……まあ、多い分には問題ない」
依頼書は、後から報告でもいいらしい。
なので、こいつらは全部倒すことにしよう。
「た、たくさんいるわ……」
「安心しろ、しっかり掴まってろよ?」
「う、うん!」
俺は左腕でカグヤを抱き寄せ、右手でアスカロンを構える。
すると、魔物達が一斉に動き出す!
「カグヤに近づく奴は容赦しない」
「ゲヒー!?」
「ブヒャー!?」
アスカロンを振るい、ゴブリンやオークを一撃のもとに始末していく。
この程度なら本気を出すまでもない。
「あ、あっという間に……相変わらず凄いわね」
「ゴブリンやオーク程度なら、百匹以上いても問題ない」
「でも、あの魔刃剣ってやつは使わないの?」
「アレは中々の魔力を消費するからな。こんな序盤で使っては、魔力切れになってしまう。それにこう木々が多いと、威力も落ちるしな」
「魔力……魔力供給……私にも出来ることあったかも?」
「ん? どうし……すまん、失礼する!」
「きゃあ!?」
承諾を得る前に、カグヤを抱えてその場から跳躍する!
すると今まで俺達がいた場所に、大型の猫のような生き物が襲いかかってきた。
どうやら、木の上から奇襲をしてきたようだ。
水色の皮膚をしているので、こいつがウォーターキャットで間違いない。
「シャァァァァァ!」
「……少しはやりそうだな」
鋼等級の魔物とはいえ、初めて戦う魔物だ。
俺は無敵ではないし、カグヤを守らなければならない。
……さて、油断せずに戦うとしよう。
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