第27話 思い出話に花を

 さて、魔物を倒したのたが……討伐依頼証明を持って行かなくては。


 確か、耳で良いんだよな。


「カグヤ、グロいからあっち向いてろ」


「見るわ……だって慣れなくちゃ……いずれはやるわけだし」


「そうか、無理だけはするなよ?」


「わかったわ!」


 俺はナイフを取り出し、耳を切り取っていく。


「しかし……これくらいならいいが、やはりが必要になるか……」


「フフフ……これを見なさい! ジャーン!」


 カグヤは自慢げに、何やら小さな巾着袋のようなものを見せてくる。

 そこには、先程取った薬草類が入ってるはずだが。


「その袋がどうかしたのか?」


「まあ、見ていなさい! うぅ……えい!」


 カグヤは恐る恐る、切り取った耳を手に取って袋の中に入れる。


「おい、そんな小さいのじゃ……袋の形状が変わっていない?」


 おかしい……薬草ならともかく、袋の容量的に魔物の耳が入るわけ……まさか!?


「魔法袋か!?」


「正解よ!」


 魔法袋とは中が異次元となっており、見た目よりも物がたくさん入る収納道具だ。

 古代の遺跡で、ごく稀に発見されるらしい。

 容量の大きい物は、それこそ王族や高位貴族でないと持ってはいない。

 容量が小さい物であっても、そこそこの値段はする。


「 そんなもの、どうしたんだ?」


「エリゼがくれたわ。 お金はありませんが、これなら差し上げられますって」


「……なあ、あの人って何者なんだ?」


 先程言った通り、魔法袋は貴重だ。

 ほいほいと、差し上げられるものではない。


「え? エリゼはエリゼよ、クロウも知っているじゃない」


「いや、そういうことではなくてだな……見た目も変わらないし、あの強さといい。更に魔法袋……俺が貰ったこの騎士服も、おそらくは貴重だろう」


「うーん……確かに、私が子供の頃からあの姿ね。私も、一度聞いたのよ?」


「……どうせ、アレだろ?『乙女の秘密ですよ』とか言ったんだろ?」


「あれ? クロウも聞いてみたの?」


「いや、聞いてない。聞いたら殺されると思ったからな……まあ、カグヤを大事に思ってくれてるなら何者でも良いか」


「うん、私もそう思ったわ」


 依頼を済ませたら都市に戻り、ギルドで報告を済ませる。

 やはり、魔法袋があると荷物が楽で良い。


「はい、確かに。では、こちらが報酬です」


「ありがとうございます。では、失礼します」


「あ、ありがとうございます!」


「いえいえ、丁寧な仕事の方で嬉しく思います」


 その後は昼食を食べ、宿の部屋に戻って話し合いをする。

 今日だけで、一日分の宿代くらいにはなった。

 つまり、最低これだけやれば生活は出来る。


「お金の価値は変わらないから、わかりやすくて助かるな」


「そうね。でも、私あまり詳しくないのよね……その、自分で買うことなかったから」


「それもそうか、お嬢様だったな」


「ごめんなさい、世間知らずで……」


「いや、気にすることはない。俺も、最初はそうだった。こう見えてな、伯爵子息だったんだぜ?」


 俺はカグヤが気を使わないように、なるべくおどけて見せる。


「ふふ、知っているわよ。ありがとう、励ましてくれて」


「……バレたか、まあ、追追説明するとしよう」


「うん、お願い……やっぱり、頼りになるわ」


 そう言い、微笑んでくれる。

 よし……頑張って覚えた甲斐があった!

 これはナイルに感謝せねば。

 俺も高位貴族でお金の価値がわからなかったから、平民であるナイルが教えてくれた。

 俺が報酬を誤魔化されたり、騙されたりしないように……なのに、アイツには何も返してやれなかったな。


「ありがとう……と言いたいところだが、これは受け売りなんだよ。俺の元部下のな」


「それって、西の国境のこと?」


「そうだ、ナイルといってな……俺が右も左もわからない小僧だった時から、色々と教えてくれてな。年下の俺なんかにも、最後までついてきてくれた良い奴なんだ。それにカグヤを助ける時に、アイツが協力してくれた」


 あいつがいなかったら、俺はとっくに死んでいたはず。

 お金以外にも戦争の戦い方、部隊の決まりなど様々なことを教えてくれた。


「そうなんだ……じゃあ、もし会ったら私もお礼を言わなきゃ。 その人のおかげで助かったってことだもん。それに、今もこうして助かっているわ」


「ああ、そうしてくれると嬉しい。まあ、お互いの場所を知らないから、会うことは難しいがな……」


「そうなんだ……でも、良かったわ」


「ん? どうしてだ?」


「だって、悪い思い出ばかりじゃないってことでしょう? クロウに友達がいて良かったって」


 ……そうか、辛い記憶ばかりだと思っていた。

 でも、そういう見方もあるってことか。


「そうだな。辛いことが多かったが、悪いことばかりではなかったかもな。皆で飯食ったり、バカ話をしたり……」


「それじゃ、私はその話が聞きたいな」


「……今日はそうするか」


 幸い、まだ追っ手は来ていない。


 今のうちに英気を養うほうを優先しよう。


 そして、明日から本格的に動けばいい。


 そうしてカグヤと思い出話をしながら、時間は過ぎていった……。

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