第23話 とある貴族の話~???視点~

  王都にある屋敷の中、俺は怒り狂っていた。


 あまりの腹立たしさに、家具や花瓶を部屋に投げつける。


 それでも怒りは一向に収まらない。


 それもこれも、あのクソ息子のせいだ。


「クソッ! 今更出てきやがってクロウめ……余計なことをしてくれる! どうする? いくら縁を切っているとはいえ、俺の息子であることに変わりはない」


「貴方!」


 そんなことを考えていると、妻であるエルラが部屋に駆け込んでくる。


「どうしたエルラ!?」


「さ、宰相様が……」


「失礼しますよ、ごきげんよう。ゼーネスト伯家当主、ロドマン殿ですね?」


 宰相……来たか……早すぎる!

 まだ、何も言い訳を考えていない。

 俺は焦りを抑えつつ、冷静を装う。


「はい、そうです。何か、私にご用でしょうか?」


「ほう? 表向きは動じていないですね? 流石は、腐っても伯爵家当主ですか」


 この……腐っているのはお前の方だろうが!

 次々と、自分の邪魔者を排除しているくせに!

 何処の馬の骨ともしれない婿養子の分際で……!


「……いくら宰相様とはいえ、言い過ぎではありませんか?」


「いえいえ、反逆者の父親にはこれで充分ですね」


「アレは息子などではない!」


 確かに前妻の子であり、血の分けた息子ではある。

 だがとうの昔に捨てたし、そもそも生きているとは思ってなかった。

 数年後に生きていると知ったが……その時には英雄と呼ばれ、逆に手出しができなくなっていた。


「絶縁はしていますが、父親であることに変わりはないでしょう。では、とりあえず死んでもらいましょうかね?」


「なっ!? 何故だ!?」


「色々と余罪も出てきましてね。そちらの奥方からも。相当悪どいことをされているようで……元妻の家の後継を殺したり……」


「ッ〜! お前だってやっているだろうが!」


 あまりの言い方に怒りの沸点が超える。

 すると、宰相の空気が変わった。


「お前? これはこれは……」


「ま、待ってくれ! 謝る! ど、どうすればいいんだ!?」


「そ、そうよ!何をすればいいのよ!?」


 忘れてはいけない!

 こいつは、何十人と政敵を始末してきた。

 俺達を殺すことなど容易いだろう。

 俺とエルラは頭下げ、必死に命乞いをする。


「お二人共、死刑です……が、助かる方法がひとつだけあります」


「なっ、なんだ!?」


「カグヤを連れ出し、クロウを殺すことですよ。アレがいると、私の計画に支障が出るのでね。ただし、カグヤは殺してはいけませんよ? アレには使い道がありますから……」


「なに!? 今のあいつは強いのだろう!? 私達では、勝てるわけがない!」


 それに、あいつは俺を憎んでいるはず!

 どっちにしろ、殺されるではないか!


「わ、私も恨まれているわ!」


「それは自業自得でしょう。ですが、手は打ってあります。貴方達には、餌となってもらいます。そして、いざという時のためにを渡します。それがあれば、最悪失敗してもどうにかなるでしょう」


 その提案に俺達が逆らえるわけもなく、仕方ないので了承する。

 その後、宰相バーグ侯から、手順の説明を受けた。

 そして、俺の気が変わった。 

 これなら、確かにいけそうだ。

 あいつも人間だし、もし失敗してもコレがあれば……。


「いいでしょう。無事果たせば、無罪放免ですな?」


「ええ。それさえ果たせば、こちらでもみ消しておきましょう。その後は仲良くできそうですね」


「わかりました。それさえ聞ければ十分です」


 うむ……丁度良いかもしれん。


 アイツは邪魔だった。


 才能もあり正義感も強く、可愛げもない。


 せめてもの慈悲で、追放だけですませてやったが……その内勝手に死ぬだろうと思っていたのに、アイツは生き残っていた。


 幸い、口煩い女は死んだがな。


 だがコレで終わりだ、俺の罪も消えて邪魔者も消える。


 考えようによっては、いいこと尽くめではないか。


 クロウよ、最後に親孝行をさせてやろう——父の為に死んでくれ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る