第22話 街の様
トロールを倒したことで、俺達は認められたようだ。
なので、無事に都市の中に入ることが出来た。
今は馬を預け、先程の指揮官殿に都市の中を案内してもらっている。
「さて、今更だが……俺の名前はゼトだ。冒険者でもあるが、この都市の防衛をまとめている将軍でもある」
「ゼトさんですね、わかりました。これから、よろしくお願いします」
「カグヤといいます。ゼトさん、よろしくお願いします」
見た目は三十代後半ってところか……この若さ将軍とは、やはり実力者とみた。
立ち振る舞いにも確固たる自信と、強者特有の空気感がある。
「こっちこそ、強い奴は大歓迎だ。ただ、金は出せないんだ。まだクロウは、冒険者登録もしていないようだしな」
話を聞いてみると、どうやら都市の防衛に参加した冒険者には、手当が出るシステムのようだ。
冒険者ギルドと国から同時に報酬が出る……やる気が起きないわけがないな。
「いいえ。こうして都市を案内してくれるだけで、有り難いことです」
「ほう……? 若いのに随分としっかりしているな。 よし気に入った、今日は俺が金を出そう。そもそも、部下を救ってくれたしな」
このタイプには、遠慮はむしろ失礼になるな……。
ここは素直に好意を受け取っておこう。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
「ゼトさん、ありがとうございます」
二人で、きちんと頭を下げて礼を言う。
すると、ゼトさんが照れ臭そうに頭をかく。
「ハハ……おふたりさん、良いカップルじゃねえか」
「にゃい!? カ、カップル!?」
「なんだ違うのか? あ、兄妹だったか?」
「いえ、カップルです。すみません、恥ずかしがり屋さんなもので」
カグヤが凄い勢いで俺の腕を掴んでくる。
そして、口がパクパクしている……可愛いな、おい。
「なんだ、そういうことか。すまんな、お嬢さん」
「い、いえ、大丈夫ですわ」
「見たところ、騎士と姫ってとこか。頑張れよ、俺はそういうの好きだぜ」
「はは、ありがとうございます」
適当にごまかし、その場を切り抜ける。
ちなみに、カグヤはずっと俺を睨みつけていた。
その後宿に到着し、ゼトさんは受付の人に事情を説明している。
なので、俺とカグヤは少し離れて待つことにすした。
すると、顔を真っ赤にしたカグヤが小声で話しかけてくる。
「クロウ……!ど、ど、どういう意味よ?」
「ああ、アレか。そういうことにしておいた方が、都合が良いと思ってな……」
「……何か考えがあってのことなのね?」
「ああ、まあな。詳しいことは部屋に入ってからにしよう」
そう言うと、カグヤがほっと息を吐く。
「ええ、わかったわ……もう、ドキドキして損しちゃった」
「すまん、驚いたよな。事前に言っておくべきだったか」
「そういう意味じゃないんだけど……もう! 相変わらずね!」
すると、話を終えたゼトさんが戻ってくる。
「おいおい、お二人さん。痴話喧嘩なら、部屋でやってくれや。ここは割と音漏れもしないから、色々と遠慮なくできるぜ?」
「すみません。色々と配慮していただき感謝します」
「音漏れ……! 色々……うぅー」
「クク、若いってのは良いね。何、良いってことよ。アンタは使えそうだからな。先行投資して、恩を売っておいた方が良さそうだ」
……ふむ、中々の当たりを引いたのかもな。
今のところだが、気持ちの良い人物のようだ。
「では、遠慮はいりませんね。そして、いずれ返すとしましょう」
「おっ、言うねぇ。ますます気に入った。三日分は払っておいたから、あとは自分でどうにかしてくれ。ではな、また会おう」
「ええ、また。どうもありがとうございました」
「あ、ありがとうございました!」
その後、受付の人に案内され、部屋の中に入る。
良し……きちんとゼトさんに伝えておいて良かった。
恥ずかしがり屋さんだからという理由で、ツインの部屋をお願いしておいたのだ。
「わぁー!思ったより、良い部屋ね!」
「ああ、これは借りが大きそうだ。まあ、有り難いことだ」
ベッドが二つと、テーブルが一つ、椅子が二つある。
広さも十分にあり、共同だがトイレや風呂まで付いている。
「で、さっきのはどういうことなの?」
「いや、簡単な話だ。二人でいることに違和感がない。年頃の兄妹じゃあ、そこまで一緒にいることはないかと。むしろ、部屋を分けたいだろ?」
「……確かに、お兄様とは絶対に嫌ね」
アラン様、ご愁傷様でした……小さい頃はよく寝てたけどな。
「それはそれで可哀想だな……まあ、あとは言葉遣いや所作だな」
「どういうことかしら?」
「カグヤはどう見てもお嬢様だ。所作や言葉遣いに、それが表れている」
「まあ、そうね……クロウ以外には、出てしまいそう」
カグヤは辺境伯令嬢にして、王妃としての教育を受けた者。
普段の言動や行動はアレだが、しかるべき時になればきちんとしてしまうはず。
「おそらくだが、俺も平民には見えないだろう。ということで、騎士とどっかの貴族令嬢の駆け落ちということにしようかと。そうすれば、多少は怪しまれずに済むだろう。加えて助けたことで、俺らに悪感情は持たない。誰かに聞かれても、黙っていてくれる可能性が高い。ゼトさんも、そう思ったようだしな」
「だから、私はお嬢さんって呼ばれていたのね。ごめんなさい、色々考えてくれて……私は、全然気が回らなかったわ」
「別にいいんじゃないか? それぞれにできることをすれば良いと俺は思う」
「うーん、私に何ができるかしら? そもそも、私は何がしたいのかしら?」
無理もない……今までは、王妃になるために必死に生きてきた。
「前にも言ったが、ゆっくりでいい。まずは、身体と精神を休ませることが重要だ。それから、色々なことをしてみたり、考えたりすればいい。その間、俺が側にいよう」
「私、貴方に甘えてばかり……どうしたらいいの?」
「そんな泣きそうな顔をするな。俺が好きでやっていることだ。誰にも強制されていない、俺自身が決めたことだ。ただ……カグヤには笑っていてほしい」
「それだけでいいの……? うん……わかったわ!」
すると、明るい笑顔を見せてくれる。
気持ちとは不思議で暗いと暗くなるし、明るくしてれば明るくなるものだ。
「ああ、それでいい。さて、流石に疲れたな……風呂に入って寝るか」
「ク、クロウが先でいいわ!」
「お、おう? では、そうしよう」
俺は風呂場に行き、シャワーを思いきり浴びて考える。
「……俺の理性よ、ここからが本番だ」
俺とて成人した普通の男。
野営ならともかく、好きな女の子と同じ部屋はきつい。
もちろん、無理強いをする気は毛頭ないが。
「……よし、出るか」
気合を入れて部屋に戻ると……寝息を立てるカグヤの姿があった。
「スー、スー……」
「寝てしまったか。まあ、風呂なら明日でもいいか」
布団もかけずに、倒れこむようにベットの上で寝ている。
「やはり、疲れていたのだろうな……寝かせてやろう」
布団をかけてあげ、俺も寝床につく。
果たして、好きな子が隣にいて寝られるだろうか……。
こうして、新しい生活が始まろうとしていた。
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