第21話 期待の新人

 魔物、それは大陸のあちらこちらに生息する生き物である。


 様々な種類があり、人類が把握していない魔物もいるほどだ。


 主な二足歩行の魔物は、ゴブリン、オーク、オーガ、トロールなど。


 四足歩行では、ドック系、キャット系など。


 空を飛ぶのは、ワイバーンや、ドラゴンなど。


 さらには、それらに上位種というものが存在する。


 例えばだが、ゴブリンジェネラルや、ゴブリンキングといったような。


 特に、この魔の森と言われる場所は種類が多いようだ。


 大陸の南西部を占めていて、奥の方には誰も行ったことがないらしい。


「クロウ、何処行くの? そっちには魔物がいないわ」


 「いや、盗賊に勘違いされては困る。なので指揮官に参戦の許可を取らねば。あの中で一番強そうな人……アレだな」


 俺は当たりをつけ、その人物に近づいていく。

 おそらく年齢四十歳ほど、俺並みの身長に俺以上にゴツい身体。

 頭髪は黒く短め、サイドをピシッと刈り上げている。

 立ち振る舞いや佇まいからして、おそらく強いだろう。


「そこの御仁!」


「……見ない顔だな。その目は盗賊ではない……それに強い。それで、俺に何の用だ?」


 俺は敵意がないのを示すため、一度馬を降りて礼をする。


「失礼、俺の名前はクロウといいます。ここで冒険者として活動したいと思い、今たどり着いたところです。こちらの指揮官とお見受けしますが……」


「なるほど、そうか。指揮官なんて上等なもんじゃないが、まあ……まとめ役ではあるな」


「戦闘中に申し訳ない。単刀直入に言うと、参加してもよろしいか?」


 俺がそう言うと、相手の視線がカグヤに向けられる。


「だが、お前……女連れじゃないか。いや、お前自身が強いのは見ればわかるが」


「私は大丈夫だわ、クロウがいるもの」


「ああ、任せていただきたい。むしろ、強くなるくらいです」


「……まあ、いい。じゃあ、あっちに行ってくれ。トロールがいるから、新米の中には死んじまう奴もいる」


 ゴブリンは百六十センチほどの魔物で、小鬼とも呼ばれる。

 醜い見た目と、出っ張った腹が特徴的だ。

 オークは百七十センチほどの魔物で、通称ブタ人間とも言われる。

 少し太った人の身体に、豚のような顔がついている。

 そしてトロールは三メートル近い魔物で、食人鬼とも言われる。

 でかい胴体の割に短い手足、口が大きく人を丸齧りできる。

 なので……強さ習性共に危険な相手だが、俺の敵ではない。


「了解した。では、軽く蹴散らしてこよう」


「いや、軽くって……」


「まあ見ていてください。カグヤ!しっかり掴まってろ!」


俺は再び馬をまたがり、反転する。


「わかったわ!クロウ、行きなさい!」


「任せろ! 怖いなら目をつぶっていろよ!」


「怖くなんかないわ! クロウがいるもの! 守ってくれるんでしょう……?」


「当たり前だ!ハッ——蹴散らしてくれる!」


 惚れた女にそんなことを言われて、やる気が出ない男などいない。

 さて、どちらの剣を使うか……アスカロンだな。

 アロンダイトでは潰れてしまうから、カグヤの目にもよくない。

 右手にアスカロンを構え、左手でカグヤを抱き寄せる。


「きゃっ!」


「大丈夫か? すまんが、ちょっと我慢してくれ」


「う、うん……」


 そして、魔物の群れに突撃する。

 この乱戦では、魔刃剣は迂闊には使えない。

 なので、人に気を付けながら剣を振るう。


「なんだ!? あいつは!?」


「つ、強えぇ! 新人か!?」


「ゴブリンや、オークが瞬殺されていく……」


「まるで猛獣のようだ!」


 まずは一撃を入れ、自分が味方であることをアピールする。


「訳あって助太刀する! 俺の間合いには入らないようにしてくれ! トロールは俺に任せていい!」


「わ、わかった! 聞いたなオメーら!」


「「「おうよ!!!」」」


 それだけで通じ、俺の近くから離れていく。

 状況判断が早い……流石は戦い慣れているな。


「なんだか、荒くれ者が多いわね……」


「そういう土地柄なんだろう。魔物と戦うために、礼儀とかは気にしていられないんだろうな」


「そういうことなのね」


「それにしても余裕ありそうだな?」


 こうして話している間にも、俺は魔物共を駆逐している。

 その際に血飛沫や、色々な部位が飛び散っている。

 普通なら、悲鳴をあげていてもおかしくはない。


「だって、クロウがいるもの。この左腕に包まれると安心するわ……」


 そういい、身を寄せてくる……ゴハッ、なんだこの可愛い生き物は!?


「そ、そうか!」


 いかんいかん! 今はこっちに集中!

 ……一つだけ言えることは、俺のやる気が増したということだ。


「邪魔だ! 退けぇ!」


 剣を振るい、次々とゴブリンやオークを始末していく。

 もちろん狙いは……この奥にいるトロールだ。


「助かるぜ! ニイちゃん!」


「あっ! トロールだ! トロールがきたぞぉぉぉ!」


 声の方を見ると、奥の方に確かにいた……そして、トロールが兵士に近づいていく。

 兵士は腰が引けたのか逃げきれず、その大きな手に捕まる。


「トロールに捕まったぞ!? もうダメだ!」


「ク、クロウ! どうにかならないの!?」


「問題ない」


 トロールの近くには、あの兵士しかいない……ここだ!


「魔刃剣!」


「ガァァァァァァァア!?」


 俺が放った斬撃は、狙い違わず兵士を掴んでいたトロールの腕を傷つけた。

 そして、腕に掴まれていた兵士が解放される。

 流石はトロール、あの距離とはいえ切断は出来ないか。


「今のなんだ!?」


「斬撃が飛ぶだと!?」


 騒ぎ出す兵士を尻目に、俺は馬を走らせトロールに接近する。


「そこの人! 早く逃げろ!」


「す、すまねえ! 恩にきるぜ!」


 男が後方へ下がっていくのを確認し、改めてトロールに向き合う。

 その目は怒りに染まり、俺を見下ろしていた。


「大きいわ。ク、クロウ……大丈夫よね……?」


 俺は不安を取り除くように、左腕で優しくカグヤを包む。


「大丈夫だ、怖がらなくていい。一瞬で終わらせる……!」


「グォォォォォォ!」


 怒りに任せて、両腕の拳を振り下ろしてくる!

 その拳は土煙を上げ、地面には穴が開いていた。

 トロール痛覚も鈍く頭も悪いが、そのパワーはゴブリンやオークとは一線を画す。


「だが、俺の敵ではない——剛・魔刃剣!」


 俺は、いつもより大量の魔力を込めて剣技を放つ。

 そして、その斬撃はトロールを真っ二つにした。

 奴は自分が死んだことにも気付かずに、二つに分かれ地面に伏す。


「す、凄い……凄いわ! 本当に強くなったのね!」


「ああ。この力があれば、カグヤを守れる」


「クロウ………えへへ」


「おーい! クロウとやら!」


 すると、先程の指揮官がこちらにやってくる。


「いかがされたか?」


「助かった、もう大丈夫だから下がってくれていい。可愛いお嬢さんもいることだしな。

 しかし、トロールを一撃で……こいつは、期待の新人だな」


 その言葉を皮切りに、周りの兵士や冒険者達も声を上げる。


「うおお! あんたすげーよ!」


「あんなの見たことないぜ!」


「犠牲者なしにトロールを倒せるとは!」


 ふう……これでいいだろう。


 打算がなかったといえば嘘になる。


 これで、この都市に住みやすくなるはずだ。


 


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