第13話 辺境伯領にて

 ひとまず帝国軍を追い返した俺は、久々の辺境伯邸に案内される。


 そしてヨゼフ様の私室にて、詳しく話を聞くことにした。


 ソファーに座り、対面にヨゼフ様、隣にはカグヤがいる。


「ヨゼフ様、何がどうなっているのですか?」


「そうじゃな……ワシも詳しいことは知らんが、順序を追っていくとしよう」


「まず、カグヤが死刑になるという通知は?」


「来たぞ……ただ、その直前にな。怒りでどうにかなりそうだった。こちらには、噂などが届かないようにしておったのだろう。おそらく、宰相でもある侯爵家の陰謀じゃろう」


 なるほど、それでヨゼフ様は助けに来れなかったのか。

 まだ疑問は残るが、ひとまず後回しにしよう。


「どう考えても冤罪ですから。では、あの王太子の横にいた女は侯爵家の娘ということですか」


「おそらく、そういうことじゃろう。我が辺境伯家が力を持つことを恐れたのか……ふむ」


「そしてカグヤを排除して、自分の娘を皇太子にと……権力にしがみつくクズめ」


 もし、出会ったなら殺す……元はといえば、そいつが原因ではないか。

 もちろん、皇太子達も許すつもりはないが。


「ワシからも質問させてくれ。どうやって知り、どうやってここまで?」


「兵士の間に噂が流れて来まして……それを聞き、すぐに国境を越え」


 すると、言葉の途中でヨゼフ様が身を乗り出す。


「待て!そのためには、上級兵や将クラスがいる場所を通らなくては……」


「ええ、なので片っ端から片付けました。奴らのせいで、俺の部下がどれだけ死んだか……ちなみに、辺境伯も始末しました」


「なんと……やはり、あちらは酷いようじゃな。ふむ、先ほど見せた強さなら突破も可能か。あのクソ豚なら死んで当然じゃ……同じ辺境伯として、あんなのと一緒だと思うと恥ずかしい限りだ」


「ええ、その通りかと。その後は馬をひたすら走らせ、帝都へ行き処刑台にいるカグヤを救い出しました。そして、ここまで連れて来ました」


 その言葉に、ヨゼフ様は頭をテーブルに擦り付ける。


「そうか、ギリギリだったのだな……改めて感謝する!」


「あ、頭をお上げください!」


「いや、こればかりは受け取ってくれ」


「……相変わらずですね。わかりました、受け取りましょう」


 ヨゼフ様は頭をあげて、微笑む。

 こういう方だから、俺は尊敬している。

 すると、カグヤまで俺に頭を下げてきた。


「私からもありがとう! クロウは、そんな大変な思いをしてまで私を助けてくれたんだ……」


「カグヤもいいから。俺は、俺のためにやっただけだ。大切なカグヤを守るという、俺の意思によって。さっきも言ったが、カグヤが気に病むことはない」


「……そ、そうよね! 気にしないわ!」


「ああ、それでいい。カグヤは、そうやって元気なのが良い。君には、それが似合う」


「はぇ?……もう!バカ!」


「……なんで叩くのだ?」


「知らない!」


 俺の肩をぽかぽかと叩いた後、そっぽを向いてしまう。

 女性とは難しい……げせぬ。


「まあ、お主ならカグヤを安心して任せられるか……少し、複雑ではあるが」


「ええ、お任せを。必ずや、カグヤを守り抜いてみせましよう。どんな理不尽なことからも。そのためだけに、俺は強くなったのですから」


「……フンだ! もう好きにして!」


「ん? ああ、そうするが……」


「やれやれ、何年経っても関係は変わらないようじゃな。これは、苦労しそうじゃな……クロウだけに」


 その寒いギャグに、俺とカグヤがヨゼフ様に冷たい視線を向けた。

 こういう感じも、相変わらずといったところか。


「「…………」」


「…………ワシが悪かった、だから可哀想なモノを見るような目を向けんでくれ」


「もう! お父様ったら!」


「ヨゼフ様こそ、相変わらずですね。ところで、肝心なことを聞いていないのですが……」


「ああ、わかっておる。長兄アランと……」


 その時、勢いよく扉が開き……誰かが入ってきた。

 それは物凄い速さで俺に迫ってきて——その手には短剣が握られていた。


「お嬢様から離れろ曲者め!」


「またんか!」


 その制止も聞かずに、そいつは迫ってくる。

 俺は咄嗟に腕に魔力を込め、短剣を向けて拳を放つ!

 魔力のこもった拳と、魔力のこもった短剣が衝突し、部屋中に衝突音が鳴り響く。


「アンタも相変わらずだな!」


「なに!? 私の攻撃を防ぐとは……それにその顔、その声……髪色が違いますが、まさかクロウですか?」


「そうだよ! というか、いきなり何すんだ! 俺じゃなかったら死んでるぞ!?」


「チッ!お嬢様に近づく者は死ねば良い!」


 襲ってきた女性はメイド長のエリゼ、通り名はだ。


 ちなみに……俺の師匠でもある。

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