第11話 突撃

 休憩を挟みつつ、辺境伯領を目指すこと五日経ち、ようやく近くまで来ることができた。


 幸いにも途中の村で風呂に入ることもでき、十分な食事と睡眠も取ることができた。


 その分お金はまた減ったが、致し方ない。


 カグヤも遠慮はしていたが、明らかに嬉しそうだったし。


 いやな予感がするので急いではいるが休息も大事だ。


 そして俺とカグヤは、辺境伯領近くの大きな町で、情報を集めることにする。


 村とかでは中々情報が行き届かないが、大きな町なら情報屋がいるからだ。


 そこで、俺とカグヤは驚愕の事実を知る。


「何? ……辺境伯家と帝国軍で戦いだと?」


「そ、そんな……!」


「え、ええ。といっても、今は睨み合いが続いていますが……」


「貴重な情報に感謝する。これをとっておいてくれ」


 俺は残りの有り金のほとんどを渡す。

 情報量としては高すぎるくらいだ。


「こ、こんなにですかい!?」


「それに値する情報だ。それと……わかっているな?」


「へい、もちろん。アンタ達のことは俺は知らない、見たことも話したこともない」


 よし、これでいい。

 漏らさないという保証はないが、安全面を考えたらな。


「なら、いい。もし、お前が漏らしたとしたら……わかるな?」


「只者じゃないですな……わかってますよ。俺だって情報屋の端くれだ」


「よし、いいだろう。カグヤ、行くぞ」


「………」


 カグヤは状況が飲み込めないのか、呆然としてしまっている。

 俺はカグヤの両肩を優しく掴み、目線の高さを合わせる。


「カグヤ、しっかりしろ。今は一刻を争う事態だ」


「う、うん、そうよね……お父様、無事でいて」


「大丈夫だ、あのエリゼがいるなら負けることはない。だが、急ぐとしよう」


 町を出た俺たちは、再び馬を走らせる。

 ちなみに戦闘に備え、カグヤを前に乗せている。

 こうすれば、前だけに気をつければ良い。


「そういえば、クロウって凄いのね」


「ん? 何かあったか?」


「ああいう取引とか、しっかりしてるなって……感心してたの」


「まあ、これでも隊長だったからな。部下の命を守るために、情報は必須だった。もちろん、俺が生き残るためにも……」


 戦いとは情報戦で、それを制した者が勝つといっても良い。

 それをあの上官達は理解しないから、自腹を切って密偵や情報屋を雇っていた。


「そうよね……あの黒い髪が、真っ白になるほど苦労したんだよね」


「まあ、仕方ないさ。なあ、やっぱり変か?」


「ううん、そんなことないわ。その、似合ってて……カッコいいわよ!」


「それは、嬉しいな。よし! スピード上げるぞ!」


 そして走ること数時間後……見えてきた。

 しかも、既に戦闘が始まっている。


「カグヤ、しっかり掴まっていろ。このまま、戦場を駆け抜ける」


「わ、わかったわ!」


「安心しろ。カグヤには、傷一つすらつけさせはしない」


「私だって回復魔法なら使えるわ。だから、怪我したら治してあげる!」


「そうなのか? では、もしもの時は頼むとしよう」


 まあ、俺が傷を負うとは思えないがな……本当の戦場を知らずに、王都に籠っているだけの連中などに!

 俺は背中から、斬れ味抜群のアスカロンを抜き、馬のスピードを上げる。

 帝国軍であるならば、遠慮はいらない。

 奴らは戦いもしないのに、高価な武器や鎧を使用する……見栄を張るためだけに。

 その金があれば、何人の仲間達が死なずに済んだか。


「退けぇ! 帝国兵よ! それでも俺の前に出るやつは——覚悟するが良い!」


 俺は後ろから、帝国軍に突っ込んでいく

 今はカグヤがいるから、駆け抜けることが最優先だ。

 俺の咆哮に気づいた兵士達が振り向く。

 しかし、どうして良いのか分からず右往左往していた。


「なんだ!?」


「どこからきた!?」


「伏兵を回したのか!?」


 やはり、この程度の練度か。

 俺の部下達なら、自分の判断で咄嗟に動くだろう。


「邪魔だ——魔刃剣乱舞!」


 俺は魔力を込め、剣を縦横無尽に振るう。

 すると、魔力の斬撃がいくつも飛んでいく。


「馬鹿め! この鎧は特製……う、腕がない!? ァァァァァ!?」


「馬鹿者! 腕で受けるからだ! 腹で受ければ……ゴボッ! ば、バカな……鎧の中まで斬られている……?」


 俺の斬撃で、次々と帝国軍の兵士が倒れていく。

 その中を、俺はひたすら駆け抜ける。

 すると、カグヤが震えているのがわかった。


「こ、これが戦場……」


「カグヤ、辛いなら目を閉じてるといい」


「ううん、クロウだけを戦わせているのにそんなことはできないわ」


「……そうか。だが、無理はするなよ?」


「わかってるわ」


 俺に気づいた兵士達が迫ってくるが、魔力の斬撃で蹴散らしていく。

 舐めるなよ、帝都でぬくぬくとしていた奴らなど俺の敵ではない。

 そして、道が開ける。

 視界の先には、見覚えのある懐かしい顔があった。


「よし! 抜けた! ……ヨゼフ様!」


「 お父様だわ! お父様〜!」


「なんだあの騎士は!? それよりも、カグヤ!? ワシの愛するカグヤではないか!」


 そして、号泣しながらこちらに向かってくる。

 相変わらずだな……ヨゼフ様は。

 馬を降り、カグヤは嬉しそうに駆け出していく。


「カグヤ! 良かった……そしてすまなかった!」


「ううん、良いの。 私は無事よ……お父様こそ、無事で良かった……!」


 良かった、ヨゼフ様が生きていて……何より、カグヤを無事に送り届けられた。


 しかし、まだ終わりではない……とりあえず、奴らを蹴散らすとしよう。


 親子の感動の再会は、誰にも邪魔をさせん。


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