第10話 実感
逃走中にどうにか村を見つけ、馬を買うことが出来た。
水と食糧を調達できたのは大きい。
俺はともかく、カグヤは普通の女の子なのだから。
本当なら、洋服とかも買ってあげたいが。
ただ、俺の所持金も心許ない。
カグヤのために、金を稼ぐ必要がある。
馬の手続きの間にそんなことを考えてると、カグヤが俺の顔を下から覗き込む。
「クロウ、考え込んでどうしたの?」
「いや、着の身着のままで来させてしまったなと……すまない、着替えとかも買ってあげたいのだが」
ここにはないが、風呂とかにも入りたいだろう。
話をきいたら数日間牢屋に入れられて、そのまま処刑台に連れていかれたとか。
いかん……怒りが湧いてくる。
やはり、皇太子は殺しておくべきだったか?
いや、あの時はカグヤの安全が最優先だ。
「そんなことないわ。水だって食糧だって、クロウがお金を出してくれたもの。貴方が、命をかけて稼いだ大事なお金を……ありがとね」
王都で、無駄に税金を使って着飾る女共に聞かせてやりたい。
……やはり、俺の好きだった女性のままだ。
「ふっ……カグヤは、良い女になったな」
「そ、そうかしら? ……クロウも良い男になったわ!」
「そうか、そいつは嬉しいな。大事な幼馴染のために頑張った甲斐があるというものだ」
俺がそう言うと、カグヤが怪訝な表情を浮かべた。
「だ、大事……どう言う意味よ?」
「そのままの意味だ。カグヤ、君は俺の大事な女の子だ」
「…………」
「カグヤ? どうかしたか?」
すると、見る見るうちに耳が真っ赤になっていく。
「にゃんでもにゃいわ!」
「いやいや、猫が沢山出てきてるし……」
「いいの! ほら行くわよ!」
「はいはい、わかったよ。全く、相変わらずよくわからん」
女性のいうのは謎が多い。
……そもそも、女性は大して知らんが。
「なによ、涼しい顔しちゃって……こっちはドキドキしっぱなしなのに」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもないわよ!」
……カグヤが特殊なだけかもしれん。
そして再び馬に乗り、辺境伯領へ向かう。
しばらく走った後に、恐る恐る聞いてみることにした。
「カグヤ……辺境伯はどうして助けに来なかった?」
カグヤの死刑を止めていないということは……。
おかしい、カグヤを溺愛している方々が黙っていないはず。
「わからないわ。私にも突然のことだったから……伝えることもできなかったし」
「だが、俺の所まで噂が来るくらいだ。おそらく、ヨゼフ様にも伝わっているはずだ。それなのに、助けに来ない? ……俺には考えられない。それに、エリゼが黙っていないだろう」
「正直言って、私もそう思う……でも、実際来てないわ。確かに、変だなとは思うけど……」
……何か引っかかるな。
「カグヤ、しっかり掴まってくれ。スピードを上げる……何か嫌な予感がする」
「う、うん! わかったわ!」
すると柔らかいものが背中に……いかん! しっかりしろ!
俺はそんな葛藤を抱えながら、辺境伯領まで急ぐのだった。
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