第9話 カグヤ視点

 何故、私は処刑されようとしているのだろう?


処刑台の上で、走馬灯のようにこれまでの人生が流れてくる。


 私は十二歳の時、この国の皇太子の婚約者に選ばれた。


 辺境から王都に行き、私の生活は一変した。


 知らない場所で生活をし、来る日も来る日もお稽古や勉強。


 家族もいない、味方もいないところでたった一人で。


 それでも、その時はまだ良かった。


 婚約を決めた皇太子のお爺様が亡くなった時、また生活が変わり始めた。


 カイル皇太子は、小言を言う私を煙たがり、避けるようになる。


 周りの女性には『皇太子に意見なんて生意気よ!』とか『これだから辺境の娘は野蛮なのよ!』とか言われるようになった。


 しかしカイル皇太子は、一度も庇わない。


 それをいいことに、エスカレートしていく罵詈雑言の数々。


 それにより、すり減らされていく私の精神。


 私は間違ったことは言っていないのに……なんで国を良くしようとしないの?


 貴方達が少し贅沢を我慢するだけで、何十万という民が救われるのに……。


 この帝都はまだいい……でも、辺境の人々は飢えに苦しんでいる。


 それどころか、この国を命がけで守っている兵士に、補給などを渋る始末。


 彼らがいるから、私達が毎日無事に生活できることが、何故理解できないのかしら?


 これでは、お父様に顔向けができない。


 それに好きだったクロウにも……あんな啖呵をきってまで、ここまできたのに。


 お父様は最後まで反対してた。


 私が犠牲になることはないと。


 でも、私は変えたかった。


 北や東の人々は海に面している。


 そのために、水や食料が豊富にある。


 それらを独占し、帝都の人々と共に贅沢をしている。


 それなのに国を守る南や西の辺境には、頑としてそれらを渡さない。


 私は、それをどうにかしたかった。


 そんな時、心が折れそうな私を救ったのはある男の人だった。


 その人の名前はクロウ、私の大事な幼馴染。


 私が帝都に来た後も彼は稽古に励み、西の国境へ向かったとお父様からの手紙に書いてあった。


 そして厳しい戦いを生き抜き、西の守護者にして白き虎と呼ばれるようになったと。


 私はそれを聞いた時に決めた。


 あのクロウが頑張ってるのに、私が泣き言を言ってはいられないと。


……それなのに、いつの間にか皇太子暗殺の濡れ衣を着せられた。


そして、今……私は処刑台の上にいる。






 でも、私は死ななかった。


 何故なら、クロウが助けてくれたから……私の初恋の人で、ずっと好きだった人。


 でも、私はクロウよりも国を優先した。


 そんな薄情な私を、クロウは命がけで救いに来てくれた。


 私のために強くなったって……私のために国境を守っていたって。


 嬉しい……でも、私にはその資格がない。


 婚約破棄されて処刑されそうだった、こんな女ではクロウに相応しくないもの。


 だってクロウはとっても強くて、とってもカッコいい。


 私なんかじゃ、釣り合わないわ……。


でも、今だけはこうして甘えさせてもらってもいいかな?


そして、この恩は絶対に忘れないと心に誓った。





 

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