第8話 逃走

 無事に王都を脱出した俺は、カグヤをお姫様抱っこしたまま荒野を走る。


「ねえ、大丈夫? 疲れない? ……お、重くないかしら?」


「問題ない。むしろ、軽すぎるくらいだ」


 ……幸せだ。

 こうやって、カグヤの体温を感じられるのだから。

 カグヤが生きている……ただ、それだけでいい。


「そ、そう……? それにしても、本当に逞しくなったのね。でもいいの? 貴方は、西の国境の守護者なんでしょ?」


「それは、もういい。俺の部下達も、愛想を尽かして国を出るそうだ。それに、俺はカグヤを守りたかっただけだ。王妃になるカグヤのいる国を守る、俺はそのためだけに強くなったに過ぎん」


「え!? そ、そうだったの?」


 すると、カグヤは驚いた様子だ。

 そうか、俺は当たり前に思っていたが……それを伝えたことはなかったな。


「言っておくが、俺の信念に従い勝手にやったことだ。カグヤが気に病むことなど、何もありはしない」


「そ、そうよね! でも反逆者よ?」


「それも問題ない、俺はカグヤが大事だ。そのカグヤを殺そうとする国など、こっちから願い下げだ」


 すると、カグヤがぎゅっと抱きつく。


「私のこと疑わないの……? 信じてくれるの……?」


「信じるも信じないもない。カグヤが、そんなことをするはずがない」


「で、でも、何年も会っていないのよ? 変わったかもしれないじゃない!」


 そういい、今度は顔を上げて真っ直ぐに見つめてくる。


「そんなことは、頭をよぎらなかったな。それに、さっきの台詞は聞いていた。元兵士として礼を言う……ありがとう、カグヤ」


「そ、そうなんだ。あれは当然よ、だってそうじゃない。彼らが戦っているから、こうして平和を維持することができてるわ」


「そう言えるカグヤは素敵な女の子だ。相変わらず、可愛いし」


「ふえ!? ……何を言ってるのよ!?」


「イテッ……そういうところも、相変わらずだな」


「も、もう……でも、ありがとう」


 俺の胸を叩いた後、カグヤが再び身を寄せてくる。

 どうしたのかと思うと……その目からは涙が出ていた。


「誰も信じてくれなくて……私、やってないのに……ただ、国を良くしようとしただけなのに……なんで!? どうしてなの!?」


「カグヤ……頑張ったな、辛かったな。もう大丈夫だ、俺が君を全ての理不尽から守り抜くから」


 その後、走り続けているとカグヤが落ち着きを取り戻す。


「ごめんなさい……恥ずかしいわ、子どもみたいで」


「そんなことないさ。カグヤは、今まで頑張ってきたのだから」


「クロウ、ありがとう。あと、伝えるのが遅れたけど……助けに来てくれてありがとう。えへへ、クロウが幼馴染で良かったわ」


 おっといけない……あまりの可愛さに、意識を持っていかれそうになる。

 好きな女の子の、照れ顔の破壊力はえげつない。


「安心しろ、ずっと側にいるから」


「う、うん! ……ずっと?」


「どうした?」


「な、なんでもないわ!」


 そして、再び胸に顔を埋めてくる。


 ……本当に、助けられて良かった。

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