第7話 救出

 燃えるような長い紅髪に、整った目鼻立ち。

 小柄で細身の体型、そしてその意思の強い瞳。

 六年ぶりに会ったカグヤは、俺の想像以上に綺麗になっていた。

 もう俺は我慢しない……カグヤのために、俺の全てを捧げよう。


「良かった、間に合ったか」


「へっ? あ、あの……」


 戸惑う彼女から視線を変え、少し離れた位置にいる二人を睨みつける。

 こいつらが、ガクヤを傷つけたのか……万死に値する。


「貴様は誰だ!? 衛兵は何をしている!?」


「なんなのよアンタは!?」


 この国の皇太子と、不細工な女が何やらわめき散らしている。


「助けに来たに決まっている」


 俺は彼女を縛っていた鎖を剣で断ち切る。


「も、もしかして……クロウ!?」


「久しぶりだな、カグヤ。もう安心してくれ、君をこんなところで死なせはしない」


「クロウ……私を助けに……」


 カグヤは両手で顔を覆い、目から涙をこぼした。


「ああ、そうだ。君に救われたこの命、今度は俺が君を救ってみせる」


「ク、クロウ……ダメよ! 貴方は国境を守る英雄なのに!」


「カグヤを殺そうとする国になど未練はない。俺はカグヤを守る為に強くなった。話は後にして、今は俺を信じてくれ」


「うん……ありがとう……!」


 俺はカグヤを片手で抱き寄せ、処刑台から兵士達を見下ろす。

 状況を飲み込めていないのか、平和ボケしているのか、オロオロしている。

 これが王都の兵士たちか……情けない。


 「さあ、そこを退け。俺の剣で死にたくなければな」


 俺が気合いを込めて言うと、兵士達は尻込みする。


「兵士共殺せ! その女もだ!」


 すると、後方にいる皇太子がそんなこと言う。

 その瞬間、俺の怒りが頂点に達した。


「貴様が死ね」


 振り向き様に、アスカロンを背中から抜き剣技を放つ。


「魔刃剣!」


「なっ!?」


「カイル殿下!」


 すると皇太子の前に、騎士が出てきて剣を振るう。

 なんと、俺の魔刃剣を弾く者がいるのか。


「なんという威力……! 俺の腕が痺れるだと?」


「ならば、もう一度……」


「待て! 貴様の目的はなんだ!?」


「そんなことは決まっている。ここにいる女性を連れ出すことだ」


「ク、クロウ……」


「すまない、痛かったか?」


 少し、抱き寄せる腕に力が入ってしまった。


「う、うんん……逞しくなったと思って」


「では行くといい! 我らは手出しはせん!」


「騎士団長! 何を言っている!?」


 なるほど、あれが騎士団長か。

 どうりで、俺の剣技を防げるわけだ。


「カイル殿下、ここは逃がすべきかと。でないと、殿下の身の安全が確保出来ません」


「そ、そんなに強いのか!?ここには、奴一人しかいないぞ!」


「兵士達を見てください……奴の覇気により腰が引けています。あれでは、使い物になりません」


「ええい! うるさい! ……弓部隊、魔法部隊、全方位から撃て!」


 騎士団長の言葉を無視して、皇太子が命令する。

 それに一部の兵士達が反応し、弓や魔法を放つ体制に入った。


「カグヤ、耳と目を塞いでくれ」


「う、うん!」


 次の瞬間、全方位から魔法や矢が飛んでくる。

 俺は魔力を溜め、全方位に向けて放つ。


「ハァァ!!」


 俺を中心に園を描くように魔力の壁が発生し、それによって魔法や矢が弾ける。

 辺り一面に、轟音が鳴り響く。


「ほら見ろ! これで、終いだ!」


「誰がお終いだって……?」


 俺とカグヤは無傷のままだ。

 ただ、さすがに耳が痛いな。


「ば、馬鹿な!?無傷だと!?」


「カグヤ、嫌かもしれないが俺の首に手をまわして掴まってくれ」


「い、嫌じゃないわよ……こう?」


「ああ、それでいい」


 俺は片腕でお姫様抱っこをして、剣を構えつつ処刑台から降りる。

 こんな華奢な身体で今まで頑張ってきたのか……これからは一人になどさせない。

 カグヤが、誰を好きになっても関係ない。

 この剣に誓って、俺は一生カグヤを守り抜く。


「聞け! 道を阻む者には容赦しない! 死にたい奴だけ前に出ろ!」


「ヒィ!!」


「お、俺は死にたくない!」


「わかったから殺さないでくれ!」


 俺はカグヤを抱えつつ、油断せずに進んでいく。

 そして兵士達の囲みを抜けた瞬間、俺はカグヤを強く抱きしめる。


「カグヤ、失礼する」


「きゃっ!?」


「今だ! 撃て!」


 騎士団長はともかく、皇太子……やはり、このタイミングを狙ってきたか。

 俺は剣に魔力を込めて、思い切り振り抜く。

 俺が放った魔力の剣と魔法や弓が衝突し、辺りに砂埃が発生する。


 「これを待っていた……!」


 俺はカグヤを抱え、その隙に駆け出す。


「待て! 奴らを逃すな!」


 俺はその言葉を背にしながら、街の中に紛れ込んでいく。

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