第6話 幼馴染の元へ

 野営地を抜けた俺は、馬に乗って荒野を駆けていく。


 途中の村で言い値で馬を購入し、乗ってきた馬を買い取ってもらう。


 それを待っている間に、腹に適当な物を詰め込み水で流し込む。


 焦りはするが、結果的にはこっちのが効率が良いはず。


 馬は無限には走れないし、人間も水分や糖分を摂取しなくては動けない。


 ただし睡眠は取らない……俺は両手で顔を叩き、再び荒野を馬で駆ける。






「どれくらい走っただろうか……もう二日は経ったはず」


 兵士の巡回を避けるために、街道は使っていない。

だが、この道で合っているはず……すると僅かだが、何かが見えてくる。


「帝都だ……着いた……!」


 いや、大事なのはここからだ。

間に合わなければ、全てが水泡に帰す。


「すまん! あと少しでいい耐えてくれ!」


「ヒヒーン!」


 高い金を払っただけあり、丈夫で体力がある馬だ。

 これなら、このまま帝都まで行ける。

そして門の前に到着するが、衛兵達が数名いるだけだった。

なので、強行突破することにした。


「どけっ!」


「なんだ!? と、止まれ!」


「止まるわけにはいかん!」


「な!? おい! 誰かそいつを止めろ!」


衛兵を無視して、大通りを駆けていく。

幸い人は少なく、人に被害を与えることなく進む。

おそらく……皆、処刑台に行っているからだろう。


 「つま声のする方、人のいる気配がする方に……処刑台はこっちだな」


 そして、大通りを抜けると見えた。

高い台座に立たされ、首輪を繋がられている女性の姿が。


 「なんということだ……」


 俺が見間違えるはずがない……ギロチン台にいるのはカグヤだ。

馬を降り、人混みをかき分ける。


「退いてくれ!」


「ヒィ! 血まみれの男!?」


「な、なんだ!?」


 鎧姿に血まみれのおかげで人が退き、最前列にくる。

金網の向こう、処刑台の上にカグヤがいた。

そして、少し離れたところにカグヤに話しかける男女がいる。


「どうだ、白状する気になったか? 俺達に毒を盛ったと……もうすぐ死ぬぞ? まあ、今更白状しても許さんがな!」


「私は、そのようなことはしていませんわ。それより、本当に良いのですね? 辺境伯を敵に回し、国を守れるのですか? 貴方は皇太子なのです。 そのことを、しっかり考えた方がよろしいかと」


「お前はいつもそうだ! グチグチ言いやがって! 女は黙って俺の言うことに従っていればいいんだよ! いちいち俺に口答えするな!」


「その通りです。 ふふ、私は貴方に従いますわ。だって愛していますもの」


「そうか、マリアは良い女だな。流石は侯爵家令嬢だ。そもそも俺は、辺境にいた女なんか嫌だった。見た目が良いから我慢してたら性格が悪い。終いには、俺を毒殺しようとしやがって!」


「私はそんなことしてません。それより、そこの貴女? ちゃんと皇太子を支えてあげられるの? 民を省みることができるの? 国を守ってくれている兵士達に感謝は?」


「なに言ってるのよ? そんなことするわけないじゃない。兵士達が国を守るのは当たり前じゃない」


「なにを言っているの? 私達は、彼らがいるから安心して生活が出来ているのよ?」


 カグヤの言葉に、皇太子と側にいる女は理解不能という表情だ。

 すぐに助けに行かなくてはいけないのに、俺は動けなかった……。


 「変わってないな」


 まさしく、俺の好きなカグヤのままだ。

辺境伯令嬢でありながら、民の生活を第一に考えていたほどだ。

そのために、皇太子の婚約者になったというのに……踏みにじりやがって。


 「……許さん」


 俺は手に魔力を込め、無理矢理に金網を広げる。

 そして中に入るなり、断頭台へと駆け出す。

悪いが、近くにいる兵士達には退いてもらう。


「なんだ!?きさん——グェ!?」


「何者——ゴハッ!?」


 魔力の込めた拳で、兵士達を吹き飛ばしていく。


 そして足に魔力を込め、高く跳躍する。


 そのまま処刑台に乗って振り向くと……そこには目を見開いたカグヤがいた。



 


 





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