第5話 積年の恨み

 俺は兵士達を蹴散らしつつ、奥へと向かう。


 「……いた、あそこか」


 野営地の一番奥に、一際目立つ天幕がある。

 というより、もはや家といった方が正しいか。

 その前にアークライト辺境伯、それを守るように上級士官達がいる。

 どうやら、俺を待ち構えていたようだ。


「クロウ! 貴様どういうつもりだ!」


「どうもこうもない……貴様を殺しにきた」


「な、なんだと!? 恩を仇で返しおって! お前達、奴を殺せ!」


「恩だと……? お前が俺達に何をした!? 俺の部下達を殺しやがって!」


「ヒィィ! 早く奴を殺せぇぇぇ!」


 アークライト辺境伯の一言で、兵士達が一斉に動き出す。

 その動きは統制が取れており、俺を囲むようにじわじわと寄ってくる。

 腐っても、上級士官といったところか……まあ、それだけだが。


「馬鹿め! 一人でどうにかなるとでも思っているのか!?」


「英雄や白き虎などと呼ばれ増長したか!」


「戦いもせずに後ろで指示するだけの連中が吠えるな。本当の戦いを知らないお前達など敵ではない」


「舐めるなよ! 我らは雑兵とは違うぞ! 皆の者、 一斉にかかれ!」


 上級士官達が、槍や剣を構えて一斉に襲いかかってくる。

 その後ろには、弓兵や魔法使いもいた。


「腕は確かでも、実戦知らずが何を言う!」


 剣撃がくる、槍の突きが迫る、弓矢が飛んでくる、魔法が飛んでくる。

 俺は全身と剣に魔力をめぐらせ——二本の剣を振り回す!


「ハァァァァ!」


 二本の剣から放たれる暴風により、全ての攻撃が弾かれる。

 同時に余波により、敵の馬達が暴れだす。


「うわ!? なんだ!? 馬が!?」


「ヒヒーン!?」


 その隙を見逃さず、まずは馬の制御のきかない奴らに迫る。

 騎兵など、動きを止めてしまえばなんてことはない。

 二本の剣を縦横無尽に振りながら、上級士官達を一思いに始末する。


「魔刃剣!」


 さらに魔力の斬撃を飛ばし、弓兵や魔法使いを戦闘不能に追い込む。

 四肢が飛び、あちこちに転がる。

 やはり痛みを知らない奴らは、それだけで戦意を喪失する。


「俺の足がない!? ァァァァァ!?」


「血が止まらない! だれか……!」


 治療する暇もなく、次々と地に伏していく……そして、死体の山ができた。

 その山を越えて、俺はアークライト辺境伯の前に進む。


「さあ、後はお前だけだな……ブレイダ」


「ヒィィ! やめてくれ! か、金か!? 女か!? それならいくらでもやる! だから……!」


 戦えるとは思えない肥満体の身体、禿げた頭部に顔に湧き出る汗。

 情けなく命乞いをし、尻餅をついている様……その全てが醜い。


「こんな奴のために、俺の部下達は……もういい、お前は喋るな。本当なら苦しませて殺したいが、俺にも時間がないのでな……一瞬で終わらせてやる」


「や、やめてくれ! 俺はまだ死にたくない!」


「きっと部下達も、そう思って死んでいっただろう……死ね」


「やめ——ケペェ!!」


 アスカロンを振り降ろすと、頭部が潰れてただの肉塊と化した。

 だが、俺の心は晴れない。


 「これで仇はとれた……いや、ただの自己満足にすぎんな。死んだ者達が帰ってくるわけでもない……それでも、手向けくらいにはなっただろうか」


 気持ちを切り替え、俺は馬を走らせて王都へ向かう。


 カグヤ、待っていてくれ。


 今、助けに行くから……君が、俺を助けてくれたように。

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