第10話 俺たち実は重病人
「そういう大道寺はどうなんだよー。いつからそんな売れない芸人みたいな話し方になったん?」
「急に刺してくるでござるなぁ。拙者は十二月の前ぐらいですぞ。この身体になってからの流れ的には、豊久氏とそんな変わらない感じですな」
「ほーん。時期的には似たようなものなんか」
「拙者も詳しくは聞いてないでござるが、日本は十月以降に発症することが多いとのことです」
「あ、それボクも聞いたー。絶対ミスターTが調整か何かしてるって言ってた」
「またアイツか。……またも何も、全ての元凶だけど」
「なんかねー。この病気が出た最初はそうでもなかったのに、二年ぐらいしてから症時期が偏り出したんだってさ。今はその国の学年末付近で発症するようになってるっぽい」
あの邪悪な則巻〇兵衛は本当にさぁ……。それだけの能力あるなら、もっと人類に恩恵を与えてくれよ。それかいっそのこと悪の科学者として吹っ切れろ。……いや吹っ切れた悪の科学者にはなってほしくないわ。間違いなく洒落にならんことになるし。
ただそれはそれとして、何でところどころで妙な気遣いらしきものを見せるんだろうか。克服後のイケメン化とかもそうだけど。
「あの犯罪者、一回頭の中開いて見てみたいわ。思考回路とかも含めて」
「言いたいことは凄い分かりますが、見たところでどうにもならんでござるよ」
「いや弱点露出してんじゃん」
「まさか脳みそ叩き潰す気でいらっしゃる?」
HAHAHA。そんなまさかぁ。ただ客観的な評価としては、あのマッドサイエンティストは存在してはいけない生き物だとは思ってるよ。
「で、苦労話の方はどうなん?」
「拙者が一番困ったのは、家族関係でござろうか」
「……それ聞いて大丈夫なやつ? シリアス系なら、別に言わなくても大丈夫だからね?」
「ご心配なくでござるよ、飛鳥氏。クッソくだらない内容なので」
「と言うと?」
「最初はわりと気を遣われてたのですが、ある程度したら雑に扱われるようになりましてな。母と妹から着せ替え人形にされたでござるよ」
「草」
また随分とファンキーなご家族だことで。性別変わるかどうかの状態で着せ替え人形とか、普通なら家族会議ものでは?
「正直、カウンセリングが定期的に入るようになったの、これせいだと思ってるでござる」
「草」
「あの、拒否とかできなかったんですか?」
「……それとなく距離を置かれていた小学生の妹から、すっごいキラキラした目で見つめられましてなぁ」
「その妹さんとロリの俺、どっちが可愛いですか?」
「どうやら貴様は死にたいようだな」
「ゴメンナサイ」
珍しくガチの声音だったな今。てか、クソロリはクソロリでよくそこ攻めにいったなと思う。
今の台詞からして、明らかに強火のシスコンだろ大道寺は。ラブリーマイエンジェルとかワンチャン言ってるぞマジで。それと見た目が整っただけの汚物と比べるってお前……。
「えっと、次は俺で良いすか?」
「逃げられると思うなよ」
「ヒエッ」
「何で俺のとこ来た?」
オイ止めろ。背中に隠れるな。まあまあ修羅ってる大道寺に対する盾にすんじゃない。
「助けてお兄ちゃん!」
「よく考えたらアレか? ケツ叩きなら絵面的に大丈夫か?」
「なら靴下を使うでござるよ。適当に硬いもの詰めれば、即席のブラックジャックになりますし」
「あの、ゴメンナサイ。本気で謝るんで勘弁してくださいお願いします!」
「……次はないでござるよ」
あ、やらないの? そろそろ一度折檻しとこうかなと思ってたんだけど。大道寺、やっぱりキワモノのフリしてるだけの常識人よね。
「そこで残念そうな顔するあたり、やっぱり豊久君ってこっち側だよね」
「自分がヤベェって自覚はあんのか」
「ほん?」
「えっと、そろそろ暴力は控えた方が……」
「……はぁ。凛太郎君にそう言われちゃ仕方ないか。このクラス唯一の良心だし」
「俺そんな扱いなんですか……?」
うん。わりと本気で、ここのメンバーの外付け良心枠だと思ってる。まだ初日だけど、素直にそう思えるぐらいにはキミ善良。
「それじゃあ変態ロリ。話してみなよ」
「うっす。俺がこの身体になったのは一月半ばでした。朝起きたら視点がめっちゃ低くなってて、超ビビったんすよね」
「あー、それ分かる。ボクも変態ロリほどじゃないけど小さいし。慣れるまで違和感凄いよね」
「そうなんですよ。で、大変だったのはやっぱり身体にまつわる部分でして」
「……念のため訊くけど、下ネタ系だったりする? その場合は発言権取り上げるけど」
「いや。俺ん家、長めの石段とかある系の神社なんすけど、歩幅が変わったせいで出入りが地獄になりました」
「お前、その言動で神社の息子とか恥ずかしくないんか?」
「なんなら長男なんで、暫定跡取りっす」
「ない胸張るんじゃねぇクソロリ」
誇らしげにすんな。むしろ恥じれ、煩悩の塊がよう。……煩悩って寺か?
「んー。変態ロリ、思ってたより大変そうだね」
「そうなんですよ。可哀想でしょう?」
「いやザマァって思ってる」
「あれー?」
「残当なんだよなぁ……」
これが日下部君、いや大道寺までなら素直に同情できるけども。流石にお前は無理だわ。悔しかったら言動を改めてどうぞ。
「次は……日下部君どうかな?」
「俺ですか? えっと、この身体になったのは二月ぐらいです。大変だったのは、受験直前にこの身体になったことでしょうか……?」
「oh......」
「場合によってはガチでキツイやつ」
「受験に対するモチベーションで判断が別れるでござるな……」
そっかー。受験生だとそういうパターンもあるのか。受験先に何かしら思い入れがあったのなら、かなり精神的にくるかもしれない。……いやまあ、元の学校に思い入れ云々は、ここにいる全員に言えることだけど。
俺の場合、そういうのはないっす。近場で入れそうな高校に入っただけだし、クラスメートともそんなにだったから。仲の良い奴らも普通にいたけど、卒業したらどうせ疎遠になるぐらいの距離感だったしなー。部活にも入ってなかったし。
「日下部君的にはどうだったの? そのー、ショックだった?」
「あ、いえ。受験に思い入れがあったわけではないんです。志望校も、自分の学力と相談して決めただけなので。ただ本当に試験直前だったんで、かなりバタついた感じで……」
「なるほどねー。ちなみに訊くけど、クソロリはどうなん? 年齢十五って言ってたし、受験生だったんだろ?」
「なんもないっす。むしろ試験バックレられてラッキーとしか」
「知ってた」
お前はそういう奴だよな。キャラのブレがなくて安心したよ。
「あと受験生だったのは、大沢かな? そっちはどうだったの?」
「……」
「おーい? この期に及んで無視とはいい度胸だなこらー?」
「チッ。俺がこの身体になったのは一カ月前だ。高校はスポ薦で決まってた。でも、この身体になったせいで目標にしてたチームに入れなかった。これまでしてきた努力も全部パァだ。……これで満足か?」
「……マ?」
「マジだよ。もうすぐ時間だ。席戻るわ」
そう言って大沢が離れていった。……えぇ、マジか。もしかしなくてもこの話題、大沢的には地雷だった?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます