第9話 ショートコント 座談会

「まあ、馬鹿なやり取りはこれくらいにして」

「ば、馬鹿の一言で片付けんじゃねぇ……。今の、ガッツリ暴力だろうが……!」

「こ れ く ら い に し て」


 強い(確信)。舎弟の苦情に一切聞く耳持たない飛鳥さん、マジ素敵っす。


「トークテーマ提案。流石に身の上話を共有するのは早いし、この姿になった時期とかはどうよ? わりと気になんない?」

「あー」

「悪くはないでござるな」

「よし決定! ほら大沢早く立ちなよ。何時まで寝てんのさ。それとも、そんなにボクのスカートの中見てたいの?」

「お前本当にいつか泣かすぞ……!」

「じゃあ代わりに俺が寝ても良いですか?」

「座談会するって言ってんだろ変態ロリ」


 コイツら本当にブレないな。飛鳥さんは暴君だし、大沢は威勢だけ良いし、クソロリはクソロリだし。

 キャラ濃い奴らが一箇所に集まると、こうも胃もたれしそうになるのか。……大道寺がツッコミ寄りの常識人気質なの、マジで不幸中の幸いかもしれない。


「それじゃあ発表ターイム。あ、ついでに性転換して苦労したエピソードも添えてると良きだよ」

「それ実質命令だったりしません?」

「逆に訊くけど、日数だけ言って次とか駄目すぎない?」

「それはそう」


 唯一気になった点は、飛鳥さんが命令の部分をツッコまなかったことかなぁ。疑問すら思ってなさそうなのがまあまあ怖い。ナチュラルに暴君気質な可能性がある。

 まあ、狂犬『オオサワ』の飼い主としてはこの上ないのだけど。あと、地味に色々仕切ってくれるのはありがたい。

 クラス内では最年長だし、年功序列的な意味でも従いやすいのよね。


「じゃあ、自分は普通と思い込んでそうな変人こと、豊久君から」

「ステイ」


 でも、やっぱり逆らう時は逆らわなきゃいけない気がする。具体的には今とか。


「どしたの?」

「異議ありです。その不名誉な枕詞はなんでしょうか」

「枕詞の使い方間違ってるけど」

「わざとです」

「いや馬鹿が露呈しただけだろ」

「ちょっと飛鳥さん! オタクのお子さんお口が悪いですわよ? どんな教育をしていらっしゃるの!?」

「お前ら本当にぶっ飛ばすぞ!?」

「ボクに対する暴言三つで腹パン一発」

「横暴すぎだろテメェ!?」

「はい腹パン」

「ごっ……!? ま、まだ三つも言ってねぇ……!?」

「だから?」


 怖すぎんだろこの人。


「そっちはそっちで、文句はまず変態ロリの手綱を握ってから言いなね?」

「そもそもコレを担当することにも異議があるんですけど」

「ピース」

「お前も腹パンしてやろうか?」

「児童虐待」

「その返しはちょっと強すぎやせんか?」


 ここぞとばかりに見た目を利用すんじゃねぇ。絵面が最悪なのはその通りなので、マジで手を出すのは無理そうだし。


「……チッ。話を戻しますが、さっきの謎の前置きはなんですか? 変人扱いは流石に遺憾なんですが」

「今の一連に評価の全てが詰まってるでござるよ?」

「えっと、失礼だとは思うのですが、大道寺さんの仰る通りかと……」

「ばんなそかな」

「おーい。そろそろ話戻してくれなーい?」

「ア、ハイ」


 クソッ。異論は未だにあるのだが、日下部君に認められては引き下がるしかあるまい。あの子がこのクラスで一番常識あるだろうし。


「それで性転換した時期ですか。えっと、十二月末ぐらいでしたね。年末直前」

「うわっ。それマジで大変だったんじゃない?」

「そっすね。もう家中がてんやわんやでしたよ」


 家族には本当に申し訳ないことをしたと思う。特に父さん。事実上、正月休みが消し飛んだようなもんだもん。

 家でゆっくりするどころか、ハラハラドキドキしっぱなしだったはず。色々と駆り出されてたし、物理的にも休めなかっただろうし。


「そこから半月ちょい検査入院して、その後は自宅療養。ちょくちょく検査とメンタルチェックを繰り返して、今に繋がる感じでした」

「え、あの、メンタルチェックだけなんですか? カウンセリングは……?」


 カウンセリング? あー、精神状態が悪くなったらやらされるアレか。東堂さんも言ってた気がする。専門医と働いてる元性転換者を交えての話し合い。


「一回もしたことないね」

「えぇ……」

「そんなドン引きされるほど?」

「俺、メンタルチェックとセットでしたけど……。だから変だなって思ったわけですし」

「拙者も二回に一回はやってたでござる」

「ボクはゼロ」

「俺もゼロ」

「普通毎回あるんじゃねぇの?」

「……」


 オイ何だその目は。飛鳥さんとクソロリを見たあとに俺を見るんじゃない。凄い物言いたげな視線を向けるな。目は口ほどに物を言うって言葉知らんのか貴様ら。


「それでー、この身体になって一番苦労した話なんですけどー」

「誤魔化した」

「誤魔化したでござるな」

「誤魔化しましたね……」

「やっぱりトイレですか?」

「変態はちょっと黙ってろ」


 オイ馬鹿コラ大沢お前コラ。クソロリのこと黙らせてんじゃないよ。内容は気持ち悪いけど、トークテーマに対する返しとしては間違ってないだろうが。内容は気持ち悪いけど。


「身体的なアレコレは全員共通だと思うんで、敢えては言いませんけど。一番大変だったのは、女子としての立ち振る舞いでしたね。あの指導がまあ大変で」

「「「「「あー……」」」」」

「やっぱりこれは満場一致かぁ」


 あの大沢ですら頷いてるあたり、皆も本当に大変だったんだってのが分かる。

 女子としての立ち振る舞いとか、改めて指摘されると男には縁のないやつばっかだったからな。

 スカートは基本履かないにしても、やれ胸元は気をつけろとか、ブラはちゃんと付けろとか、周囲に対して警戒心を持てとか、そんな感じのことを東堂さんから延々と指導されたのだ。

 最初はメス堕ちに繋がりそうで嫌だったんだけど、それを疎かにしてはトラブルに繋がると言われては、患者としては従うしかなかった。……性犯罪遭遇→人間不信→メンタル崩壊→メス堕ちルートとか聞きたくないんじゃ。シンプルに重い。

 まあそんなわけで、精神的には依然として男である俺も、最低限の女子らしさを身に付けている。身に付けさせられたのだ。苦労話としてはこの上ないだろう。


「うんうん。ようやく特別クラスっぽくなった気がするよ。皆で共感しあって、ストレスを減らすのが目的だしね」

「一番目的と外れてる人が何か言ってる」

「豊久君は正座」

「どうして……」


 間違ったこと言ってなくなーい? 制裁怖いからするけども。……これもう恐怖政治だろ。


「ちなみに飛鳥氏。ようやくそれっぽくなったと言いましたが、今までこのクラスのこと何だと思っていたのでござるか?」

「芸人養成所」

「否定できんでござるなー」


 オイ大道寺。何でこっち見て言った? お? さては喧嘩か? 売れない芸人みたいなお前だけには言われたくないんだが?

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