第7話 ようこそここが地獄です その三

前書き

ここだけ二話連続投稿になってますので。最新話から来た人は『その二』からお読みください


ーーー




「えっと、次の人は……」


 気が重いなんてもんじゃないのだが、だからと言ってここで切り上げても角が立つ。

 なので仕方なく、本っっっ当に仕方なく自己紹介を継続することにした。


「……チッ」


 オイしろや。目が合ったんならしろや。無駄に機嫌が悪いのはとっくに理解しているが、事務的な会話ぐらい成立させろ。


「……はぁ。ゴメンね豊久君。この子アレだから。まだ女の子になったことを受け入れられてないみたいでさ。さっきからずっと不貞腐れてんの」

「っ、不貞腐れてなんかねぇよ!」

「なら馬鹿みたいにブスくれてんじゃないよ。そんな姿をボクらに見せて何したいの? お母さんみたいにヨチヨチされたいの? 高校生にもなって八つ当たりとか、恥ずかしくないのかクソガキ」


 ノータイムでぶった切ったなこの人。流石はメスガキと感心するべきか。自然にこの台詞が出てくるとか凄いわ。レスバが最強すぎる。


「っ、うるせぇんだよこのカマ野郎! テメェに俺の何が分かるってんだ!!」

「知らねぇよ。分かってほしかったら自己紹介ぐらいちゃんとやれ。ここは全員で協力して、この奇病を乗り越えようって場所だ。協調性皆無の人間なんかお呼びじゃないんだよ」


 正論なんだけど、それ言ってる本人が性転換受け入れてるのがなぁ……。本心で言ってるのかは一旦脇におくとして、現状だと乗り越えるつもり一切ないのよね飛鳥さんって。


「何か言いたそうな顔してるけど、ボクはアレだから。このクラスで協力できることは協力するし、輪を乱すつもりは一切ないから。この馬鹿とは違うよ」

「っ、誰が馬鹿だ!」

「お前だよお前。本当にいい加減にしろよー? 最初は気難しいのかと思ってスルーしてやったけど、一向に態度改めないのは論外だからな? これ以上歩み寄る気配を見せないなら、こっちも実力行使に入るから」

「んだよ!? やろうってか!?」

「違うわ馬鹿。然るべき場所に報告するだけだよ。ここにいるのはお前だけじゃないんだ。他の面々に悪影響だと判断されれば、お前だけ弾かれることになるよ? 個人治療の統計は聞いてんでしょ? 男に戻る機会がグッと遠のくぞ?」

「っ……!」


 あー、これは勝負あったかな? 単純なレスバだけじゃなく、制度を絡めての理詰め、しかも最後通牒付きとなると……。うん、これは反論の余地がない。

 あと、妥協しなきゃ本当に追い出されかねない凄味がある。飛鳥さんマジで何者? メンチ切られても一切ビビってなかったんだけど。

 そりゃ相手も外見美少女だし、怒鳴られたところで迫力を感じないって主張されたら納得するしかないんだが……。どうもそんな雰囲気でもないんだよな。単純な慣れを感じる。


「はぁ。分かったら自己紹介。ほらさっさとやる!」

「チッ……! 大沢要だ。十五」

「年下かよ。なら偉そうにすんな。年上には敬語を使え、敬語を」

「んなっ!? さっきは年齢なんか気にしないって言ってたろうが!」

「歩み寄る気配がないのに、歩み寄ってもらえると思うな。人間関係は妥協から始まるんだよ」


 なんか教師みたいなこと言ってる……。いやまあ、これまでの言動的に、飛鳥さんの方が圧倒的に精神年齢が高そうではあるのだけど。

 にしても、凄い光景である。一人称ボクで、デフォルトの言動がメスガキで、体格も小柄なのに。圧倒的な貫禄を感じる不思議。

 大沢の外見が、ヤンキーっぽいから余計にそう感じる。銀髪ロングのストレートと、金眼ツリ目が無駄にベストマッチなんだよなぁ。学園バトル作品で出てくるカラフルなスケバン。

 てか、そう考えると駄目だ。飛鳥さんと大沢の組み合わせ、姐御と舎弟にしか見えなくなったわ。舎弟の方は内心でまだ屈服してなくて、わりと頻繁に反発してる感じの。


「……これは決まったかな?」

「飛鳥氏、意外と面倒見良さそうですしなぁ」

「ちょっとー? 何でボクが……いや、良いや。仕方ないね。ボクがコイツの面倒を見てあげるよ」

「はぁっ!? おい勝手に決めんな! そもそも面倒を──」

「代わりにそこの変態ロリの相手は任せた」

「……チッ。仕方ねぇから従ってやるよ」

「ちょっと待って?」


 ねぇ? 変態ロリって何? いや、確かにロリと形容できそうな外見はいるんだけど。推定ヤバい奴がそうなんだけど。

 コイツそんなヤバいの? 狂犬みたいな大沢が一瞬で引き下がるレベルの奴なの? ノータイムで関わりにならない選択をするほどなの?


「……っ、あー。現状、このクラスは六人なわけですし。確かにペアっぽいものは作っておいて損はないかもしれませんな。凛太郎氏、よろしくでござる」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「おい本当に待てコラ。特に大道寺コラテメェ」


 人が戦慄してる隙に、何勝手にペア組んでんだオイ。シレッとヤバい奴の相手を押し付けんじゃねぇよ。先に人となりを知ってるからって卑怯だろうが。


「……」


 ところでさっきから、ブレザーの裾がくんくん引っ張られてる気がするんだけど。これアレですよね? 変態ロリと形容されている推定ヤバい奴からのコンタクトですよね?

 え、やだ。反応したくないんだけど。しなきゃ駄目? ……駄目だよなぁ。


「……え、えーと、何でしょう?」

「どうも、近衛刹那です。年齢は十五。刹那って呼んでほしいです」

「あー、はい。刹那君ね。よろしく。……ところで、飛鳥さんが言った変態ロリって呼び方について、説明が欲しいんだけど」

「良いですよ。代わりにおっぱい揉ませてください」

「は?」


 今なんつったコイツ?


「……ぱーどぅん?」

「おっぱい、揉ませて」

「真顔で言うな迫り来るな。お前なんなのマジで?」

「俺、女の子が大好きなんす。でも、女の子にこんなこと頼めないじゃいですか」

「そうね。なんならお前がこの学校に通うことすら許されないと思う。女子高やぞここ」


 初対面の相手に胸揉ませろとかのたまう奴、絶対に女子高にいて良い人間じゃねぇだろ。


「勘違いしないでください。俺だって分別はあります。犯罪者になる気もありません。だから稲葉さんに頼んでるんです」

「頼むな。何で俺なら許されると思ってんだ」

「だって稲葉さん男じゃないですか。てか、稲葉さんだけに頼んでませんよ。他の人らにもちゃんと頼みました。断られましたけど」

「だろうな!」


 そんなの男同士とか関係なしに嫌だわ! むしろ何で男同士なら許されると思ってんだコイツ。


「お前、よくぶん殴られなかったな。大沢以上にやべぇじゃねぇか。飛鳥さんに何か言われなかったの?」

「断られたらそれまででしょ? 嫌って言われたら普通に諦めますよ。だからギリで見逃されました」

「そこでよく普通って言葉吐けたなお前」


 普通の人間はそもそも胸揉ませろとか言わん。


「あとはまあ、開幕からカミングアウトしとく意図もあります。ある程度一緒に過ごしてから、いやらしい目で見てましたってバレるとアレじゃないですか」

「……確かに不快感的には、後者の方がゾワッとくるが」

「でしょう? これは個人的なポリシーなんですが、下劣なだけの下ネタキャラではなく、人を笑顔にできるエロ男爵を目指してるんで。だから引き際は弁えてるつもりです」

「開幕ブッパした奴が何言ってんだ」

「そこはワンチャン俺と同類であることに賭けました」

「お前侮辱罪で訴えるぞ」


 あとエロ男爵とか、シンプルに烏滸がましいわ。それトップ俳優の二つ名だからな?


「てか、そんなに胸揉みたいなら自分の胸揉めや。ガワは一応美少女だろうが」


 系統としてはお嬢様、いやお姫様系か。ゆるふわ金髪ロングで、おっとりタレ目で大人しそうな感じ。なお瞳はオレンジとピンクのオッドアイ。

 ただしロリ。飛鳥さんみたいな小柄な感じではなく、ガッツリなロリ。大きく見積もって小六が精々なレベルのロリ。……だから余計に面食らうんだよな。認知がバグる。


「いやー、皆さんみたいな見た目だったら、俺も嬉々として自己完結させたんですけどねー。貧乳とかでも気にしませんし。ただ、流石にリアルの小学生ボディは対象外です。二次元のロリキャラとかは大好物ですが」

「羞恥心とかないのかお前」


 これは変態ロリという評価もやむなし。むしろよくロリに反応しなかったなと関心するレベル。


「お前怖いわー。自分自身でもOKとか本当に怖いわー」

「可愛いければなんでも良いでしょ別に」

「よくねぇんだよ普通は」

「でも稲葉さんだって、最初は自分の身体に悶々としたりしたでしょう?」

「……それについては否定しないけども」


 確かに最初は……うん。鏡に写る自分の身体を、目に毒だと感じていたことは認めよう。

 特に着替え、トイレ、風呂とか超大変だった。今はもう慣れた、いや諦めたけど。最初は本当に大変だった。


「実際、女体に対して興味があるのは良いことなんですけどね。それが健全な男なわけですし」

「……だからってお前、クラスメートをそういう目で見ようとするなよ。同じ境遇なんだから、そこら辺デリケートな部分だって分かるだろうが」

「いやいやいや。むしろ逆だと思いますけど。お互いにそういう目で見るべきですって。折角の美少女ボディなんだから」

「……お前、もしかして気付いてる?」

「あ、その反応アレっすね。稲葉さんも、俺たちが一箇所に集められた裏の意味を察してるわけですか」

「……まあ、一応は」


 正確には、登校中に出会ったクレジーサイコ女子に教えてもらったんだが。


『お互いに性的対象として意識させることで、精神のバランスを男側に傾ける。集められた際にそういう意図があったかは分からないけど、そういう効果は確かにある』


──だからこそ、その仕組みに気付いた熱心な子は、自分の容姿を最大限利用する。自分を男側に、相手を女側に置くために。タチとネコを決める、熾烈なマウント合戦が始まるの。


「改めて考えると、ひっでぇ台詞だよなこれ……」


 ちなみにタチとネコだが、どういう意味か分からずさっき調べた。そしたら成人漫画、特に同性愛を扱う作品で登場する用語らしいことが分かった。

 何で女子高生が、それもお嬢様学校に通ってる娘さんの口から出てきたんだろうね? ふっしぎー。……せめてそういうのは隠せと思った。

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