第6話 ようこそここが地獄です その二

「はいはーい! 次はボク! ボクが自己紹介しまーす!」


 キモオタ(張りぼて)の自己紹介を終えたところで、威勢よく次の人間がエントリーしてきた。

 ビジュアル自体は美少女であるし、表面上は元気っ娘みたいで大変微笑ましいのだが。……俺は知っている。コイツは俺が教室に足を踏み入れた際、毒々しい笑みとともに自分の方が可愛いと勝ち誇っていたことを。


「ボクは飛鳥大悟! 年齢は十七で、本当だったら今年高三。あ、でもタメ口で全然大丈夫だからね? 呼び方もアスカで良いし。それじゃあ、これから三年間よろしくね?」

「よ、よろしくお願いしま──」

「ちなみに大悟って呼んだら殺すから」

「ヒエッ」


 やっぱり怖ぇよこの人! 出会い頭の印象からしてそんな気はしてたけど、絶対に性格悪いって! 言動はなんかキャピキャピしてるけど、ほぼ間違いなく猫被ってるだけだって!

 あとさっきからチラチラ気になってたんだけど、あなただけ格好違くない!? 具体的には下半分!


「……えっと、飛鳥さんはその……」

「もうっ。アスカで良いってるのに! で、何か訊きたいことでもあるの?」

「いや、何でスカートなんです? 俺たちの制服、ズボンですよね?」

「え? ズボンなんか履くわけないじゃん」

「えぇ……」


 そんな当たり前のように答えられても……。むしろ何でそうまで堂々とスカート履いてられるんだこの人。

 普通は抵抗あるはずなんだけどなぁ。だから女子高であるにも関わらず、俺たち特別クラス用のズボンが作られたわけで。

 なお、専用に作られたのはズボンだけな模様。上に関しては、他の生徒と共通のブレザーである。コストはもちろん、骨格的な問題もあるので上半身は弄れなかったそうだ。

 仕方ないことではあるし、元々俺たち側が異物なのでそこは納得している。

 まあ何が言いたいかというと、スカートをわざわざ履いてる飛鳥さんが圧倒的におかしいってことだ。


「何か不思議そうにしてるけど、似合ってるでしょ?」

「まあ似合ってますけど」

「可愛いでしょ?」

「そう……っすね」


 男に対して使うのは凄い抵抗あるけれど、飛鳥さんが可愛いのは間違いない。

 現実の人間に当てはめるべきではないのだが、飛鳥さんを一言で表現すると『メスガキ』である。……言動も含めて。

 桃色髪のボブカットに、猫を連想させるヘーゼルアイ。体格も小柄かつ華奢。ただロリと呼ぶには大きく、また胸部にもしっかりとした膨らみが存在している。

 つまるところ、童顔、いや妹系の美少女だ。それも性転換者の例に漏れず、『絶世の』という枕詞が付くタイプ。


「大体さぁ、折角女の子、それも超絶美少女になったんだよ? なら全力で可愛い格好しなきゃ損でしょ。自分に合った格好するの、そんなにおかしい?」

「……いやでも、それ下手したらメス堕ちに繋がりません?」

「そもそもボク、男に戻る気ないし。学歴とかを考えてわこの教室に通うことにしただけで。あと補助金」


 あー、そういう? いや、薄々そんな気はしてたけど、そういう考え方の人?


「つまり、飛鳥さんは心が元々女性だった的な……?」

「いや違うけど。普通に身も心も男。恋愛対象も性的嗜好もガッツリ女の子」

「???」

「男ってのはね、皆心の奥底では美少女に生まれ変わりたいって思ってるんだよ」

「……次に進んで良いですか?」

「どうぞどうぞ。ま、豊久君も大人になれば理解できるよー」

「一つしか違いませんよね?」


 これ以上は藪蛇になりそうだから、深く追及しないけども。……何で大道寺に匹敵する人間がいるんだよ。常識的に考えて、キャラの濃さはアイツの一強じゃなきゃおかしいだろ。


「えっと、それじゃあ次は……」

「んー、凛太郎君とか良いんじゃない?」

「うぇっ!? お、俺ですか……?」

「真ん中が一番気楽だよー?」

「は、はい! えっと、日下部凛太郎です! 十五です! よろしくお願いします!」

「あ、うん。こちらこそ……よろしく?」


 めっちゃ必死な感じで自己紹介されてしまった。ただの自己紹介なんだけどなぁ。でも同時に、凄い安心感もある不思議。


「あー。見ての通り、凛太郎氏は少しばかり人見知りをするタイプのようでして。その辺りを考慮して接してあげたらなと」

「やっぱりそういう系かー」

「ヒッ。ゴメンなさいゴメンなさい!」

「……これワンチャン対人恐怖症入ってない?」

「本人曰く、女性がちょっと苦手なんだそうで」

「それ色んな意味で大丈夫!?」


 ここ女子高だよ!? あと俺らも外見的には超絶美少女だよ!? それで女子が駄目って気の毒なんてレベルじゃないけど!?


「いやっ、その。み、皆さんは、俺と同じで内面は男ですし。た、ただ反射でちょっと身構えちゃいますけど……」

「あー、うん。何か困ったことあったら言いなね? 力になれることなら手伝うから」

「あ、ありがとう、ございます」


 うーん駄目そう。多分だけど、元から気弱というか、悪い表現すると陰キャ寄りなんだろうなぁ。

 それでも男、特に仲の良い男子が相手なら普通に喋れたりするのだろうが、生憎とこの場にいるのはキワモノばかりである。

 初対面+年齢バラバラ+外見美少女の時点で気弱男子にとっては辛いだろうに、半数近くが変人となれば、受け答えがたどたどしくなるのも納得と言うか。


「ただなぁ……」

「えっ!? な、何でしょうか……?」

「いや。女子が苦手な割には、女子受けしそうな見た目になってるよなって」

「あー。分かるでござるよ」

「背も高くてユニセックスだしねぇ」


 端的に言ってヅカ系なんだよな、日下部君。髪は艶のあるロマンスグレーのショートで、瞳は深いバイオレット。俺たちと違って色合いが落ち着いてるんだよな。

 それで身長高め、胸は控え目のモデル体型。顔立ちもキリッとした綺麗系。堂々としてたらマジでキャーキャー言われてそう。本人的にはあんまり嬉しくないだろうけど。

 なんと言うか、性転換病ってままならないよなぁ。せめて本人の気質にあった外見になれば良いのに。もうちょい頑張れよミスターT。……そもそも性別変えんなって話ではあるが。


「まあ、一緒に頑張ろうね日下部君」

「は、はい。三年間、よろしくお願いします」

「うん。改めてよろしく」


 それはそれとして落ち着くわー。そうだよ。こういうので良いんだよ。何で自己紹介されるたびに気疲れしなきゃならないんだ。本当にキャラが濃すぎるぞ前半二人。

 まあ、少なくともあと一人いるんですけどね! なんなら、残った一人も若干怪しい気配がしてきてるんですけどね! 

 だってさっきから凄い仏頂面してるもん。不機嫌そうに黙り決め込んでるんだもん。

 いや、推定ヤバい奴もボケっと無言でこっちを見てるんだけど。コイツはコイツで不穏なんだけど、それとは別ベクトルで……うん、どっちも嫌だわ。話しかけたくないんだけど、自己紹介の続きしなきゃ駄目かな?

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