第5話 ようこそここが地獄です その一

──実はね? この学校には、私みたいな生徒が他にもいたんだ。で、特別クラスが創設されてから、ずっと観察してきた上で出された結論があるの。それが意図してのものなのか、偶然かは脇に置いて置くとして。


「『性転換者だけを集めることには、決して表には出せない理由がある』、ねぇ……」


 一年D組。正式名称、性転換者特別クラス。その教室の扉を前にしたことで、自然と先程までの会話がフラッシュバックする。

 登校途中で出会った、非っっっ常にアクの濃い女子生徒。お嬢様学校にいて良いキャラじゃないだろと思いつつも、変人才女枠と考えると妙に納得感を覚えてしまうサイコ女子、西森愛莉。

 彼女は言った。特別クラスは甘くないと。精神安定の名目で集められたクラスではあるものの、クラスメートの性格次第では天国にも地獄にもなると。

 何故なら、特別クラスは生徒の自主性が重要視される傾向があるから。……正確には、その特殊性故に自主性を重んじざるを得ない、だそうだが。

 と言うのも、特別クラスの生徒は全員が病人だ。それも精神状態次第では、取り返しの付かないレベルで悪化するという奇病持ちである。

 そのため、教師側は過度な干渉ができない。いや、したくない。下手に干渉して取り返しの付かない事態になった場合、責任が取れないからだ。

 もちろん、イジメなどの深刻な事態が発生すれば話は別だろうが、基本的にはノータッチ。『同じ境遇の者たちとの交流による精神安定』という御旗のもと、暖かく見守っているのがデフォとのこと。


「先生たちは、トラブルが起きた際の仲裁役ぐらいの認識でいるべし、か」


 つまるところ、俺を含めた特別クラスの生徒は、破裂していない爆弾ということなのだろう。

 実際、学校側の言い分も納得はできる。性転換病自体、未だに謎しかない奇病である。下手に干渉したら、何が起きるか分からないと言われたら、それはそうと頷くしかない。

 それを抜きにしても、性転換者は社会的なマイノリティである。東堂さんが説明してくれたように、不満を叫べばそれだけで相手を社会的に追い込める厄ネタなのだ。そりゃ関わりたくもなかろう。

 まあ、それなら何故受け入れたって話ではあるのだが……。この学校の特殊性含め、何かしらの背景があるんだろう。政治的な。補助金とかも出てるだろうし。


「……」


 で、だ。学校側は基本的に不干渉。国から派遣された専用のカウンセラーなどもいることから、余程の状況にでもならない限りは介入してくることはない。

 そうなると、必然的にクラスの面々の性格、スタンスによって学校生活の大部分が左右されることになるのだが……。


「っ、南無三!」


 意を決して教室の扉を開ける。できれば、平和的な学校生活を送れるようなメンバーであってもらいた──。


「おぉっ! また新しいお仲間がやってきたみたいでござりますな! デュフフッ」

「へぇ。今度は可愛い系の子じゃん。……ま、ボクが一番可愛いけどね!」

「えっ、あっ。お、おはよう……」

「……チッ」

「あ、また来た。オープンスケベだったら良いなぁ」

 

 あ、駄目そうですねコレ。教室入っただけで分かる。絶対にこのクラス荒れるわ。平穏なんか望めねぇ。

 てか全員キャラ濃いなオイ。外見については仕方ないにしても、内面までそうであるなよ。開幕の台詞だけでも、少なくとも五分の三はアクが強いって分かるとかどんだけだ。……なんか気性荒そうなのもいるし、下手すりゃ五分の四に届くぞコレ。


「おっと。いきなり騒がしくして申し訳ないですな。新たな仲間の登場に、ついつい興奮してしまったでござるよ。ささっ、どうぞこちらに」

「ア、ハイ」


 凄い近寄りたくない。でも、いきなり拒絶をかますわけにはいかないので、仕方なく彼らのもとに進んでいく。……外見的には彼女たちなんだけど、改めてこれ違和感凄いな。自分の身体で多少は慣れたと思ったんだけど。


「さて、自己紹介をお願いしてもよろしいですかな? どうせホームルームでもやるとは思いますが、その前に名前ぐらいは知っておいた方がスムーズかと。ちなみに拙者たちは軽くですが済ませております」

「……そっすね。えっと、稲葉豊久っす」

「豊久氏ですな。拙者は大道寺鋼と申す。よろしくでござる。年齢は十六。本来の学年は高二でござる。まあ、年齢については気にするだけ無駄ですんで、年下だったとしてもタメ口で問題ござらんよ。……あ、年上だったら、言ってくれたらちゃんと改めてさせていただきますゾ」

「い、一応、自分も十六なんで……」

「それは良かった。ではタメ口でいかせてもらうでござる」


 駄目だ。徹頭徹尾濃い。見てて寒気がするぐらいキャラが濃い。一人称拙者て。喋り方もステレオタイプのオタクだし。それで名前が【大道寺鋼】て。キャラ特盛すぎるだろ。

 外見は外見でまた目立つしさぁ。全体的に赤いのよこの人。髪は真紅のロングストレート。で、瞳は瞳で色味の違う赤。なんだろ? ワインレッド?

 ともかく、凄い主人公っぽい。てか、こんな感じのラノベキャラいた。一昔前の、有名な刀使いのあのキャラ。……まあ、あのキャラと違って身長高めだし、胸もわりとある方だけど。

 いや本当、マジでなんだコイツ。開幕からパンチ効かせすぎるだろ。


「えっと……あの、その、うん。色々と訊きたいことはあるんだけど……」

「何でござろう?」

「その喋り方、何?」

「あー、これですか? ただのキャラ付けですよ」


 て、普通に答えるんかーい! てか、その口調からしてデフォルトは丁寧語だろお前。


「一応言っておくと、厨二病じゃないですよ? これもメス堕ち対策なんです。自分の中で明確な男のイメージを浮かべて、それをエミュレートして精神的な芯にしてる感じです」

「……思ってた以上に明確な理由があってビックリしてる。でも、なら何でオタク口調? それもめっちゃ古い感じの。もっと他に男らしいイメージあるでしょ?」

「いや、一周回ってキモオタが一番しっくりきたんですよ。マイナス方面ではありますが、ある意味では男らしさの極みでもありますしね。ついでに言うと、イケメンより身近ですし」

「……言いたいことは分かる」


 イメージと言うか、ロールのしやすさでは確かにキモオタの方が難易度は低いかもしれない。人間、カッコ良くなることは難しくても、気持ち悪くなることは簡単だし。尊厳を捨てれば良いんだから。


「あと自分の言動に寒気がして、どうやっても自分を美少女と認識できなくなる副次効果もあります」

「なんかもう、全力で捨て身じゃん」

「でも女になる方が嫌ですし」

「まあ、うん。そうね」


 それを言われると何も反論できないんだよね。ぶっちゃけ、共感性羞恥でこっちも辛いんだけど、女にならないために自己防衛してると言われたらお疲れ様としか……。むしろ尊敬したくなるレベル。


「まあ、そんなわけで。色々とお見苦しい姿を見せるとは思いますが、どうかご了承いただけると助かりますぞ。デュフフコポォ」

「……若干楽しんでない?」

「やるからには楽しまなきゃ損ですぞ、豊久氏」

「大道寺って凄いね……」

「デュフフ。それほどでも。あ、鋼で構いませんぞ」

「あ、うん。大道寺で」

「距離を感じますなー」


 基本的には良い奴そうではあるんだけどなー。なんだろうな本当に。会話するだけで胃もたれしそう。

 てか、コレに匹敵しそうな奴が最低二人は控えてるという恐怖よ。何が嫌って、大道寺はあくまでロールプレイの一環ってこと。それも納得できなくはない理由があってのことに対し、残りの二人は真性っぽい気配がプンプンと……。何だこのクラス地獄か?





ーーー

あとがき

てことで、新作です。形はいつもの通り。反響が大きければ連載決定の読み切り形式。

書きだめ三万ちょい。書きだめが尽きるまで毎日18時更新。

星、ハート、コメント諸々待ってます。


それでは対戦よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る