リタとビン・2
(駄目だ。全然書けない……)
「もう終わりだわ…!」
「大丈夫よ、もう1度話せばきっと彼も分かってくれるって」
ベッドカーテン越しに聞こえてくるルームメイトの話し声もあってか、リタは余計に集中できなかった。
彼女は故郷の仲間に送る文章を作ろうと何度も試みたが、やはり今はどうにも書けそうにない。
リタは一旦手を止め、通信魔導具をベッドに置いた。
代わりにそばに置いてある故郷の仲間の写真を手に取り、それを眺めた。
瓦礫を背景にしたバスケットコートに、リタとビンと、他に3名の男性が写っている写真。
5人とも、ミリタリージャケットを着用している。銃を持つ男性が2人居るが、ビンだけはバスケットボールを両手で抱きかかえ、満面の笑みで写っている。
(ラルフにテリーにモーガン、あいつら元気かな…)
リタが感傷に浸っていると、同室のエミリーの一際大きな泣き声が聴こえた。
先程からベッドカーテン越しに話し声が聞こえていたので、リタは状況を既に理解していた。
どうやらエミリーは、元の世界で彼と結婚式を挙げる予定だったらしい。エミリーはその彼に、通信魔導具で電話をかけ現状を説明したが理解してもらえなかった。エミリーは彼に頭がおかしくなったと思われ、精神病院に通うよう勧められたらしい。
(ひどい話だよな……)
リタは、エミリーが気の毒で仕方なかった。
リタは居心地の悪さを感じて、ベッドカーテンを開けた。
目の前では同室のソウォンとサラが、エミリーの手を握り、
「分かるよ、辛かったね」
と彼女に同情していた。
リタはそういう女性らしい慰めがどうも苦手だ。やろうと思っても上手くできない。
リタはベッドから出て、エミリーの横を通るときに彼女の肩を無言でとんとんと軽く2回叩いた。それが精一杯だった。エミリーは俯き、泣いたままだ。
リタは気まずさに耐えられず、そのまま部屋を出た。
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