リタとビン・3


 リタが入居しているA-46号室は、5階にある。

 

 自室を出て、2階にあるA-11号室に行くことにした。そこがビンの居る部屋だ。

 

(昨日のケイギとの件もあるからな……)


 ビンのことが心配だった。



「うわぁぁ〜!」


 奥の部屋から漏れる叫び声にうんざりして舌打ちする。


 リタが階段に向かおうとしたとき、背中に声が飛んできた。


 「ねぇ!」


 振り返ると、壁によりかかる白人女性が缶ビール片手にこちらを見ている。


 そばかすは目立つが、顔立ちが整っていてアイドルっぽい。


「うちに用?」


「あなた、昨日あの兵士やケイギとやり合ってた娘よね?」


「ああ…まぁそうだけど…」


「あれ見ててカッコ良かった! 痺れたもん!」


(なんか…面倒くせぇのに絡まれたな)


 リタは眉をひそめる。でも女はお構いなしに詰め寄ってきた。


「そこのA-48号室の『エレナ・ベーカー』よ。ロンドン出身。あたしと友達になってくれない?」


「え? 近っ…」


(酒臭ぇな……)

 

 困惑するリタをよそに、エレナは屈託ない笑顔を浮かべた。鳴き声や叫び声が漏れるこの空気の中で、そのスマイルだけは場違いに明るい。


「ここ辛気臭くて嫌になるけどさ、あなたとは友達になれそう」


(この娘、変だけどいい奴そうじゃん)


「…うん、良いよ。友達になろう。うちはリタ・ヒート。よろしくね」


 差し出した手をエレナが勢いよく握った。


「やったー! じゃあさ、今から一緒にお酒飲まない?」


「おい…まだ午前中だぜ」


「もしかしてお酒は飲めないの?」


「飲めるよ。でもこれからビンに会いに行くんだ。また酒は今度ね」


「え〜残念…ねぇ、ビンって昨日のアジア人? 助けるために必死だったんもんねー、……彼氏?」


 それを聞いて噴き出した。


「ハハッ、ビンが彼氏なわけねぇーよ。…あいつは仲間だよ」


 リタはエレナにそう説明した後、


「じゃあまた今度な」


 と言って別れた。

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