リタとビン・1


(うちらがまず、エドラド王国から与えられたのはお金と10日間の休日だった)


■■■■■


【休日1日め】


【N暦407年4月24日(日) 11時07分】


 リタが見ている『通信魔導具』の液晶画面の上方には日付と時間まで表示されていた。


(1日が24時間で時間の進み方も同じだし、曜日の言い方もうちらの世界と一緒……わけわかんねえ。本当にここは異世界かよ)


 A-46号室内―――


 リビングに入って左側の2段ベッドの下段がリタの寝床だ。

 リタは自分のベッドに寝転がったまま、通信魔導具のメール欄に文章を書いていたが、書いては消し、書いては消しを繰り返して結局1文も作成できていなかった。


(何て書けば良いんだよ……)


 リタは眉間にシワを寄せながら、文章を絞り出そうとしていた。


 リタが手に持っている通信魔導具は、エドラド王国からの貸出物である。


 今朝、エントランスホールに約30名の新規異世界者たちが集められた。

 そこでケイギから異世界者たちに通信魔導具が配布されたのだ。


 いや、正確には配布ではなく、それが異世界者の手元に向かって勢いよく飛んでいったと言うべきか……。


 通信魔導具は蝙蝠のような不気味な見た目をしており、そこら中で悲鳴が上がったが、異世界者らの手元でスマートフォンのような形に変身し、皆の手の中に収まった。どういう仕組みかは分からない。


 ケイギいわく、通信魔導具は、魔法の力で時空を越えた場所の人間にもメッセージを届ける道具らしい。通話もできる。スマホなどの通信機器がある時代の人間には相手の通信機器に文字となってメッセージが表示され、ない時代の人間には手紙に形を変えて直接相手に届く。という何でもありの仕様になっている。


 ケイギは、休み明けから本格的な練兵訓練が始まると異世界者らに前置きをしてから、


「これであなたたちの故郷の大事な人にメッセージを送りなさい。休日明けに通信魔道具は回収するのでお早めにどうぞ」


 と事務的に言った。


 彼の言いたいことを要訳すると、


「それまでに大事な人にお別れをしておいてください」


 という意味になる。


(勝手なこと言いやがって……)


 リタは不満に思っていた。

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