管理人の男・2


(あれは…たしかリタだっけ?)


 リタのすぐ後ろの東南アジア系の男が慌てて小声で言う。


「リタさん、それは不味いって……」


「ビン、こんなんでビビってんじゃねぇよ」


 隣りの『ビン』は、リタといつも行動を共にしている。


 「おいそこの女……」と、ベリルがリタの方に振り返った。


「お前は、何か俺ら兵士に文句があるのか?」


 ベリルは剣を抜き、リタに向ける。

 緊迫した空気が周囲に轟いた。時が一瞬にして凍りつく。


「ほら、言わんこっちゃない……」


 ビンは困り顔を浮かべた。


「文句?…そんなもん、大有りだよ!」


 リタはベリルを睨みつけた。周囲に伝わるほどの凄まじい殺気だ。


 20代半ばほどの若い男性兵が、咄嗟にベリルを諌めた。


「止めておきましょう……あの女は、危険です」


「ジスト……」


 『ジスト』は、ベリル直属の兵士だ。彼は、細身で長身。爽やかな風貌をしている。


 ベリルは舌打ちをし、「まあお前が言うなら仕方ねえな……」と、ジストの助言を素直に聞いた。


「女、命拾いしたな…」


 ベリルは、剣を仕舞った。


「命拾いしたのはお前の方だよ」

 

 その返しに、ベリルは再び剣を抜きそうになるが、またジストに止められていた。


(凄い! このリタという人、ただものじゃないな!)


 雄大は、心の中で拍手をした。


 緊迫した空気が緩み、元のようにまた異世界者が乗り物に詰められていく。


「さすが、リタさんっすね!」


 ビンが彼女をヨイショした。


「あんたは調子良いね」


 リタが先程とは打って変わって、やわらかい笑顔で微笑んだ。


 一触触発のこの状況に驚いていた雄大であったが、


 それ以上に、リュドスだけでなく、リタやベリルといった異世界者と外国人全てが、流暢な日本語を話しているという不思議があった。


(本当に、いま何が起こっているんだ……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る