管理人の男・3


 すし詰め状態の車内。


 雄大は、運良く出入口に近い窓側の後部座席に坐れたが、あぶれた5名は床に坐っていた。

 

 リタとビンは、前の席だ。


 車はときどき整備されていない道を通るようで、ガタガタと揺れていた。


 車内は、1人を除いて誰も喋っていない。


「なあ! 俺はレイモンドって言ってよー」


 車内中にビリビリと響き渡る大声に、皆が不快な思いをした。


 隣りに坐った、この『レイモンド』という肥った白人男性のマナーは、最悪だ。

 彼は、肥っているにもかかわらず脚を広げ、雄大のスペースをぐいぐいと占領してきた。


 雄大の反対隣りの白人男性に、


「別に余裕じゃねぇーか。徴兵だとかよー、どうせすぐ帰れるだろー」と、一方的に話しかけ、困らせていた。


 不意にレイモンドが「カッハッハッハ!!」と爆笑する。


 不快になって眉間に皺を寄せると、同じタイミングでリタが舌打ちし、「おい!」と感情をぶつけた。

 

 レイモンドは、それにビクつき、すぐ黙った。


(リタ、ナイス!)


 心の中で呟き、気分転換に窓の外に目をやった。



 車は、ちょうど平地のひらけた場所を走行中で、遥か南南東には、塔のような建造物がそびえ立っている。


(何だ、あのデカいのは……)


 雄大は、息を飲んだ。


 その建造物は神々しい光に覆われており、一際ひときわ存在感を放っていた。

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