管理人の男・1


 傘をささなくても良いほどの、小雨が降っている。


 そんな天気のさなか、エドラド兵たちは異世界者らを急かしていた。かなり苛ついている様子だ。


 説明会に居た、30名ほどの異世界者らは、訓練兵用宿舎に押し込められることになった。


 その宿舎までは、ハイエースほどの大きさの魔獣車2台で移動する。

 

 馬車に似た乗り物で、先頭には頭部が2つある獣が配置されている。この獣にはくつわがしてあり、噛めないようになっていた。


 その轡は、御者席ぎょしゃせき(操縦車が座る先頭の座席)の兵士が持つ、手綱へと繋がっている。


(凄い! ゲームで見たケルベロスみたいだ……)


 雄大は、口を開けたまま声が出なかった。



 エドラド兵は、全員で12名。


 オオトカゲのような生き物に跨がった護衛の兵士たち。各車を囲むように5名ずつと、手綱を持つ兵士が各1名ずつだ。


 1列に並ばされた異世界者らが、次々に乗り物に詰められていく。


 10名入れば充分という車内。もう乗り物の中は、すし詰め状態であった。


「オラっ! お前ら速く乗れ! ちんたらするな!」


 武装したエドラド兵の男が、怒号を飛ばす。


 乱暴な物言いのこの男は、と、他の兵士から呼ばれていた。


 この『ベリル』は、頭髪が薄く、でっぷりと肥えた中年男性だ。彼は、不機嫌が貼り付いたような人相をしている。


 雄大は列の後ろの方にいて、順番を待っていた。


 その時だった。


「偉そうに、だから国の兵士は嫌いなんだよ!」


 と、列の中程に並んでいるリタが、大声で言った。

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