第11話 魔女サラの夢 皮の研究目的

「そっかそっか!知りたいよね!じゃあ教えてあげるね!私の研究はね!…」


元気よく首を縦に振るロンを見てサラは自信満々な顔で陽気に語り始めた。


サラの行っている研究、それは今ロンが着せられている人を模した"皮"の開発だ。

現段階ではこの皮を纏っていれば飲食と排泄の問題は解決される。

そして皮のモデルとなった人物の身体能力を得ることができるのだ。

サラの皮の場合はもともとが非力なため、ロンの筋力を下回ってしまうのだが。


しかし二つ問題がある。

一つ目はロンも実感しているように常に性的な刺激を受けてしまうこと。

皮の特性を引き出すには着用者の性エネルギーが必要不可欠らしいのだ。

サラはこの点においてはさほど重要視していないらしい。

一般的に考えたら大問題なのだが…


そして二つ目、サラが一番気にしているのが魔力封止と減少の問題。

この皮を纏うときの制約で、着用者の魔法を一切使えなくするか、魔力を減少させることはできるらしい。

しかしサラが求めているのはその逆で、皮を纏うことで誰でも魔法を使えるようにしたり、着用者の魔力を増幅させることが最終目標らしい。


「この皮が完成すればみんなが今よりも便利に暮らせると思うんだ!実際私も家事とか移動手段に魔法を使ってるしね。いいと思わない?ね?」


サラの無垢な笑顔にロンは複雑な気持ちを抱いていた。

自分を虐げているはずの魔女がこんなに、まるで夢を語る少女のようにウキウキしている姿を見て…


しかし、ここにも大きな問題が潜んでいる。

それは武器として皮が使用されてしまう危険性だ。


数年前、長年戦ってきた魔王が討伐され世界は平和になった…かのように思われた。

人は愚かだった。

共通した敵がいなくなったとたんに各々の国が権力を誇示し、今もどこかで戦いが行われている。

この皮が実現してしまったらその戦いに投入されることはもちろん、今まで非戦力だった人々も戦場に駆り出されることになる。

その効果はおそらく新しい武器が開発されるといった比ではないことは明白だ。

ロンはサラの夢に手放しで賛同することはできなかった。


(俺が考える問題ではないが、難しいな。それに…)


これはロンが使っている東方の秘術にも通づるところがあると思ってしまったからだ。

修行の末に会得できれば、男性としては非力なロンでも強力な体術と技を使って戦うことができる。

才能のあった彼はこれを10代の時に会得してしまった。


当時は希望に満ち溢れていたロンだったが、実際に見えてきたのは流派同士の小競り合いや醜い継承者争い。

まだ年端も行かぬロンに金を詰み、自分の流派に組み込もうとする師範たち。

ロンの才能に対する先輩たちからの嫉妬の目。

くだらないことから逃げるためにロンは国を出て、今はその技を使って賞金稼ぎをしている。

魔女の語る皮と自分が使う秘術を重ねてしまっていた。


ロンが顎に手を当てて考え込んでいる様子を見て、サラはさっきまであんなにニコニコしていたのにすこし悲しそうな顔になった。


「だめ…かな…でもでも!私はこれを完成させてみせるからね!きっと…きっと!」


サラはテーブルに並べていた硬貨を布袋の中に戻し、本棚から本をいくつか取り出して真剣な表情で読み込むのだった。


(こいつはそんなことを考えて…でも…くそ!もやもやする!)


醜い現実から目をそらし、故郷から逃げてきたロン。

歪ながらも世界を良い方向に変えようと現実に向き合っているサラ。

自分をこんな目にあわせているとはいえ、真剣に打ち込んでいるサラに対してロンは複雑な感情を抱いていた。

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