第6話
結局のところ彼女はバトルジャンキーで…極度の負けず嫌いなようだった。
「っ…!」
彼女は今にも泣くのを抑えている子供の様にプルプルしていた。
その様子を見ているとなんだが虐めたくなるが、グッと抑える。
「あー…なんだ。お姫様はやっぱり強いね、俺も少し力が入ってしまったよ」
事実彼女は強かった。正確で精密、無駄も殆ど無く魔力の扱いも上出来だった。まぁこの時代のことを考えればだが。
「…お世辞はいいです。何もできず完封されるのを何度も味わった私からすれば貴方の方が圧倒的に強いです」
口を尖らせプリプリ怒ってる(ように見える)彼女はそう言う。
そもそもの話、俺と今の人々の魔法は結構違う。彼らは学び舎等で学んだ魔法を使う。それはつまり、普及された魔法を使っているのである。その魔法は基本的に既に完成された魔法というべきモノで例えば詠唱魔法や魔法陣の類を学ぶ訳だが、魔力の扱いがある程度出来ていれば誰でも使える代物な訳で。多少の差はあれどもう完成してる魔法を詠唱や陣で出してるだけなので誰が使っても威力速度は同じなのである。
対して俺は学び舎なんてものもなければ自分の身を守らないと死ぬ時代だった為ほぼほぼ自分で考え自分でアレンジする時代だった。だから魔力の扱いから何もかも違うのである。勿論例外はいつの時代もある訳だが。
それを踏まえた上でも彼女は十分強い。確実に自分で考えアレンジしている。が、それらは結局教えられた魔法の延長線上であり、俺にとっては大差がないのだが。
「まぁお姫様は本気を出していないだろう?いつか見せてくれよお姫様の魔法」
「!!…知っているのですね。…そうですね、いつかは」
根源魔法はこの時代ではあまり知られてはいない筈なので少し濁した、のだが彼女の歯切れが悪い。
ふむ、彼女にとって自分の根源魔法はあまり扱えていないのだろうか。でもあの様子は…。そう思っていたところで声がかかる。
「二人ともお疲れ様。僕も戦いたかったけど時間も時間だし今日はお開きかな」
「お疲れ二人共!ねね、ルインさん一緒に帰ろ!」
「え、えぇ勿論。一緒に帰りましょうフィリーさん」
「なら僕はヨハネと帰ろうかな」
フィリーはお姫様相手でもフレンドリーに行く所は流石だな。彼氏も一緒に連れて帰ってほしいんだがな。当の彼氏はニコニコで此方にいるが。
お姫様は戸惑っている様子だったがフィリーは「また明日ねー」と手をブンブン振りながらお姫様を連れて帰っていった。
「…で、ルインさんはどうだったんだい?ヨハネ」
「どうもなにも見たまんまさ。流石お姫様優秀だな、って感じだ。彼女の本気がどれ程かは知らないけども本気で来られたら多少は苦戦したかもなぁ」
俺がそういうとシモンは苦笑いした。仕方ないだろ、実力が違いすぎるんだよ。
とは口には出さないが。このラブラブカップルは俺の実力を何となくわかっている節がある。だからこそ実力の話では何も言ってこない訳だが。
「で?気づいてるんでしょ、ヨハネ。彼女何か訳ありっぽいよ」
「お前も思うか?…なんというか、身体を動かすのは好きだけど負い目を感じている…みたいな?なんかちぐはぐなんだよなぁ。力を使うことを恐れている、みたいな」
「僕も見てて思ったよ。まぁでも彼女は真面目で努力家なんだろうね、微塵も感じなかったけど」
微塵も感じなかったと言っておきながらこのカップルは気付いていた訳だが。
似た者同士のラブラブカップルな訳だ。
「まぁ考えても仕方ないだろう。お姫様の問題だ、どうすることも出来ないよ」
「それはそうなんだけどね。…それはそうと僕は消化不良なんだけど、どう?」
「どう?じゃねぇよ。もう準備万端じゃねぇか、選択しないだろ」
「ご名答ッ!」
あぁ、平和な日々だな…。と遠い目で思いつつ友人の消化不良に付き合う。
俺は既に新たな運命の歯車が動き始めている事には気付かず、平和な日々を享受している事を噛みしめていた。
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