とむらい

 完璧を失った姉に喪服を着せられ海にやってきた

 全てを守るくらいなら、ひとつだけ失って楽になればいいのに


 姉は無謬を手放すことが怖いのだろう

 わたしは無謬を見ているのが怖いのだろう


 空き瓶を割ったガラス片で姉の手に赤い線を引いた

 姉は起きなかった


 それは身体が破滅を許可したからではないだろうか


 砂浜で靴を脱ぎ、一歩一歩海に向かう

 背中には姉がいて、目の前には青い空がある


「進みなさい」


 姉の送辞を胸に海へと入っていく

 黒いワンピースが下から重くなっていく


 下着まであと少しの所でわたしは立ち止まる

 綺麗な海と青い空が広がっている

 死ぬにはいい天気だ


 立ち止まるわたしに、濡れぬことも厭わず走ってくる姉

 わたしを突き飛ばすと、わたし海に漬け込むように伏す


「綺麗になりなさい」


 それだけを繰り返しながら、さぶさぶとわたしを海で洗う

 わたしの視界は海と空を繰り返し、髪の毛まで濡れる


「綺麗になりなさい」


 赦しを与えた傷が痛むはずなのに、姉はわたしを海に伏しては笑った


 海鳥が悲鳴をあげているようだ

 わたしに対してなのか

 姉に対してなのか

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