うみにふせる

 弔いは何日も続いた

 その度に、コインランドリーで黒いワンピースと下着を乾かす

 家に帰って姉の後でわたしは風呂へ、風呂上がり手の姉は手に化粧を施す

 

 風呂場からも悲鳴は聴こえる

 どんなに化粧しても、傷の溝は消えないのだ


 わたしはシャワーを浴びながらほくそ笑む

 母が姉を慰め、わたしを悪者にして平穏の鐘を鳴らし続ける


 夏の葬式は容赦なく暑く、気持ちが良い


 わたしの体調など考慮の価値もなく海に伏される

 海鳥が鳴いていて、わたしも泣いていて、姉は笑っていた


 姉は完璧な肉体から解脱させられた結果、完全な世界へと意識が旅立ってしまった


 わたしは海へと入っていく

 下着の中のものの気持ち悪さなど関係なく、海はわたしを包みこむ


 喪服がわりの黒いワンピースが身体に張り付く

 姉は笑う

 わたしも今日はつい、笑ってしまった


 頬に鋭い痛みを感じたと思ったら、わたしは海の中に伏されていた

 ここで眠れるのなら、それでもいいと思う


 完璧な美の姉はもういない

 身体も心も儚い限りだ


 海に伏されながら、わたしは笑う

 わたしは何に怯えていたのだろう


 姉はぐっしょり濡れたわたしを引き上げると、ポケットから一枚のガラス片を取り出した

 

 血を流すことには慣れている

 今も生命の底から流れ続けている


 海にわたしの赤がどれだけ混ざろうとも

 海は、海のままだ

 わたしを切りつけるがいい


 どうせ、このままではいられないのだ

 わたしも

 あなたも


 海に伏して、死ぬだけなのに

 その間、わたしたちはどれだけ

 のたうち回って生きていくのだろうか

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