第6話 ステータス
部屋に戻ってからはや1時間。 一向に離れる気配を見せない姫野ちゃんと、何でもない雑談をし続けている。 それは好きな食べ物だったり趣味だったり、それこそ世界がこうなってしまう前の日常を
それが功を
だって、あの時真実の魔眼で見えた魂の輝きは曇りに曇りきってたんだぞ? 肝が冷えたわ。 それが今は優しくて穏やかな光を放ってるんだ。そりゃ安心するよ、マジで。
「……あの…、かって…に…へや…を……でて………しまっ…て……ごめん…なさ…い…」
「気にしなくていいよ。 そりゃあ自分1人だけになったら心細いよね? こっちこそ1人にしてごめん。不用心だったし配慮に欠けてた」
この件に関しては全面的に俺が悪い。 姫野ちゃんを1人だけ残して遠くに行ったのもそうだし、幾ら結界と聖域を使っていたとしても守りに不安があるまま離れたのも悪手でしかなかった。 それこそ俺を探す為にアパートを離れてゴブリンにでも襲われたらと思うと、悔やんでも悔やみきれない。
「……そうだ! ねぇ姫野ちゃん、お腹は空いてないかな?」
「…………はいっ…。…すいて…は…いま…す……よ…?」
沈んでしまった空気を変えるためわざと明るい声を出すと、それに乗ってくれた姫野ちゃんは返事をしてくれる。 こんな時にも気遣ってくれる心優しい姫野ちゃんの空腹を満たす為に、姫野ちゃんを引っ付けたまま目的の物を取りに向かう。
辿り着いた場所は棚の前で、その棚の中に仕舞ってある積み重なった目的の物を取り出して姫野ちゃんに手渡した。
「これっ…て……」
「うん、カロリーメイトだよ」
そう、その正体とは忙しい社会人の味方のカロリーメイトさんである。 本当に忙しい時は
ついでに冷蔵庫に移動し、中に入ってある未開封の麦茶のペットボトルの
「はいお茶。 お腹に優しくない物しかなくてごめんね?」
「あっ…どう…も。……もらえる……だけ…で…も、あり…がたい……です…から」
そんなやり取りをしながら、姫野ちゃんが食べやすいようにするためにテーブルに移動する。 うちでは床に座りながら食事をしたり作業をしたりするので、それ相応の高さのテーブルなのだ。
抱き着いたままでは流石に食べられないと思ったのか、腰に回していた腕を外して離れた姫野ちゃんはそのまま俺の隣で腰を降ろし、女の子座りをしてカロリーメイトを食べ始めた。
……やっぱり距離近くね?吊り橋効果だとは思うけど、そんなに不安だったのか。 だいぶ申し訳ないな…。今度からは気を付けよう。
食事中に声を掛けるのも気が引けるし、俺は俺でステータスの確認をしておこうか。 ……そういやステータスって他の人にも見えるのかね。
「ステータスオープン」
「………」
スキル
聖域 威光 真実の魔眼 苦痛耐性
魔法
☆ 神聖魔法 ☆ 光魔法 結界魔法 解呪魔法
称号
◎ 聖者
○ 列強
・ 称号の先駆者
・ 魔導の先駆者
・ 技術の先駆者
・ 呪いを反転させし者
・ 祝福を与えし者
・ ゴブリンの天敵
何か増えてるぅ…!?
…………整理しよう。
格闘術があるのは分かるさ。ゴブリンの天敵もまだ分かる。あんだけ殴り殺してたらそりゃ生えるよな、うん。
でもそれ以外のヤツはまッッたく心当たりないぞ!? 解呪魔法って何!? 呪いを反転した覚えはないし祝福を与えた事なんてないって! 何これ怖っ!!
「な、何だこれ…?」
「……むぐ……むぐ…………」
あまりの困惑で思わず声を出してしまったが、仕方ないと思うんだ。だって身に覚えがないんだから。 本当に何なんだ…。
……………………考えていたらドツボに
というかレベルあんまり上がってないな。そういうもんなのか?
「………………むぐむぐ………んくっ。…あの…、ごちそう……さま……で…した…」
「…ん? 一本だけで良いの?」
「は…い、…もう……おなか…が……いっぱい…です」
声を掛けられたので横を見てみると、1袋分だけ食べて手を合わせている姫野ちゃんの姿があった。 …お、頬に食べカスがある。
「姫野ちゃん。ここ、ここ」
「……? ……っ!」
名前を呼んで食べカスの場所を指差して教えると、姫野ちゃんは指で食べカスを
「ふふ」
「〜〜〜…!!」
俺の声を聞いて更に小さくなった姫野ちゃんは恥ずかしさが上限突破してしまったのか、赤面した顔を両手で覆い隠してしまった。
なんていうかこの子、凄いイジり甲斐がありそうっていうか、イジりたくなる雰囲気があるというか…。 ……もしやこれはイジメっ子の思考…?
「んんっ。 ごめんね?」
「…………むぅぅ…!」
上目遣いで睨んできた姫野ちゃんをジッ…と見つめていると、居心地悪そうにもじもじしだした。 あ、目をそらした。かわいい。
「……もうっ…!」
「…………」
「なに…を、…にこにこ……してる…ん……ですかっ…!」
「いやぁ…。姫野ちゃんがかわいくて、つい」
「うー……!!」
ついに打つ手を無くしたのか潤んだ瞳で俺を睨みつけ、遂には小さく唸り始めてしまった。
……や…やばい…!この子の反応が良すぎて攻めの手が止められない!
「おにい…さん……は…、やさ…しい……けど…いじわる……です…!」
そっぽを向きながら文句を言っている姫野ちゃんなのだが、その耳は赤く染まっていた。
…………ふぅー。最初は気を紛らわせてほしかったからやってたけど、姫野ちゃんが元気に食べたり話したりしてるのを見てテンションが上がっちゃってたな…。流石に落ち着こう。 これ以上はライン越えだ。
「ごめん。少し意地悪しすぎたね」
「い…え」
これが昔からの悪癖なんだよ…。最初に意図してた事でもテンションが上がると忘れてやり過ぎる。それが駄目だって分かってるのに、どうしても直せないんだよな…。 これで何回怒られた事か……。 はぁ…。
「……………………ありが…とう……ございま…す」
「……え?」
先程まで顔をそらしていた姫野ちゃんは俺の方に顔を向けており、真剣な表情でお礼を言ってきた。
俺が脳内で反省会をしていると突然お礼を言われた為、何に対するお礼なのかを考えて首を捻っていると、いつの間にか右手が姫野ちゃんの両手に包まれていた。
「わたしを……きづ…かってくれ…た……ことも…。……わたしのこと……を…たすけ…て……くれたこと…も。……わたし…に…おきた…こと……を…きかないで……いて…くれ…た……ことも。 ………………でも、わたし…は……おんを…あだ…でかえす……おこない……を…してしまい…ました」
姫野ちゃんの瞳から「話を聞いていてほしい」という意思が伝わってきた為、何か返事をしようとして開きかけた口を
「…あやまって……すむ…もんだいでは…ない……ですけど…、……ごめん…なさい。……さっき…すてーたす…を…ひらいて…いた……ときに、…ぬすみ…みて……しまった…んです…!」
「あー、そうだったんだ」
……ついさっき考えてた疑問解決しちゃったじゃん。見えてるじゃんステータス。 でもまあ……見られて困るステータスはしてないしなぁ。これで職業がストーカーとか殺人鬼だったり、称号に変態とかロリコンとかあったら目茶苦茶焦ったんだろうけどさ…?
聖人で聖者だぜ? はっきり言って俺のステータスで見られて困るところは一切ない! つまりまったく問題無し!
……あっ、ゴブリンの天敵に関してはノータッチでよろしく。
「まあ、姫野ちゃんが見れる場所でステータスを見てた俺も悪いって事で。 そんなに気にしなくていいよ」
「でも…それ……だと…!」
「いいんだよ。見られた本人である俺が気にしてないんだし、見られて困るものは無いからね」
俺の言葉に、それでも納得がいかないのか思い詰めた顔で俯く姫野ちゃん。
生真面目だなぁ。マジのガチで気にしてないのに。 あ、でも聖人とか聖者って印象を俺に持たれたら困りはするか。そういうのガラじゃないし。
「…………それなら」
……?
何か案でも思いついたのか、俯かせていた顔をパッと上げると、そこには覚悟を決めた顔があった。
「ステー…タス」
…………………………!!?!?
姫野 聖 種族 : 人間 Lv3 職業 : 村人 Lv1
スキル
鑑定
魔法
称号
✳ 聖者の祝福
・祝福されし者
「こんな……もの…じゃ…おわび……にも…なりません………けど…、みて……ください」
……………………ステータス「オープン」まで言わなくていいんだ…。
初めて見る自分以外のステータス。 それを見て一番最初に思い浮かんだ言葉は、心底どうでもいいものだった。
変わってしまったこの世界で、聖者は何を成す 晃斗 @a5dai
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