第4話 ありがとう
あの後は部屋へと戻った。 見慣れたいつもの部屋なのだが、違いを1つ挙げるとすれば、
あの時、俺の言葉に反応するように少女の周りを
世界はどうしてしまったのか。なぜこんな事が出来たのか。どうして少女はあんな状態になっていたのか。……気になる事は沢山あるが、少女を救えて良かったと…心からそう思えた。
「ひとまず考えるべき事は、俺がどうなっているのかという確認…か」
これ以上少女について気を揉んでいても、目覚めない事にはどうする事も出来ない。 それまでは現状の把握に努めるべきだろう。
俺に起こっている異常は2つ。身体能力が格段に上がっているということと、人を癒せるようになっているということだ。 恐らく原因は昨日聴いた謎の声にある筈だ。
あの時は幻聴だと思ってまともに聞いていなかったので、内容については
ふーむ、なんとか確認する方法は無いものか。 ……あ。ファンタジーならあれが出来る…のか?
中学生時代の
「ステータスオープン」
すると、目の前に淡い蒼色で
スキル
聖域 威光
魔法
神聖魔法 光魔法 結界魔法
称号
◎ 聖者
○ 列強
・ 称号の先駆者
・ 魔導の先駆者
・ 技術の先駆者
なん、これ……えぇ…?
色々言いたい事はあるけれども、これだけは言わせてほしい。 俺、いつ人間辞めたの…?それに無職じゃねぇか。
取り敢えず混乱は収まってきた。 それにしても種族に職業、スキルに魔法に称号ねぇ…。まんまあの頃に見てたファンタジーものじゃん。
うーむ、まずは何から確かめたものか。…………無職なのが気に食わないし職業からにしよう。
えーっと? 職業の横にある空白にタッチすればいいのか…?
職業 :
聖者 村人 市民 会社員 交渉者 料理人 剣士 守護者 復讐者
うん…何これ? 聖者は称号のせいだろう。村人と市民、会社員と交渉者については一般家庭生まれでサラリーマンとして働いてたから分かる。 それ以降はさっぱり分からん。
料理人は…
まあ入れるとしたら聖者か。わざわざ謎の声が与えてきたものなんだし、他のやつに比べたら強くはあるだろ。はいポチー。
『職業に聖者を選択しました。 基礎能力に職業ボーナスを加算。職業に
『スキル : 真実の魔眼、スキル : 苦痛耐性、スキル :
『対象 : 天津 誠哉 は既に 魔法 : 神聖魔法、魔法 : 光魔法 を所持しています。 以前から所持していた魔法 : 神聖魔法 と 魔法 : 光魔法 に結合。両魔法のスペックと上限を開放しました』
…………これまた色々と言われたな。情報を整理する為に一旦ステータスを見よう。
天津 誠哉 種族 : 聖人 Lv5 職業 : 聖者 Lv1
スキル
聖域 威光 真実の魔眼 苦痛耐性 清廉な肉体 言祝の聖言
魔法
☆ 神聖魔法 ☆ 光魔法 結界魔法
称号
◎ 聖者
○ 列強
・ 称号の先駆者
・ 魔導の先駆者
・ 技術の先駆者
増えたし増えたわね、スキルとか表示とか。 もう訳が分からないよ。
うーむ…、…………お? 何となく俺が出来る事が分かったぞ?
ふむふむ…簡単に纏めると、聖域は
魔法に関しては、神聖魔法が治癒とか浄化とかの回復全般。光魔法が防御とか攻撃とかの戦闘全般。結界魔法は……なんか色々できる。
称号については何も分からん。以上。 …だって称号をタッチしても声に出して読んでも、うんともすんとも言わないだからしょうがないだろ。
……なんか現時点でも割と強くね? レベル以外で言えば物語の終盤とはいかなくても中盤でも通用しそうなステータスだと思うんだ。 つーかスキルは聖域以外の全部がパッシブじゃん。戦闘時は魔法メインで戦えと?
なんて考えていたら、布団がもぞもぞと動き出した。
「ぅ………んぅ……………。………?」
ゆっくりと起き上がった少女は
出来ることなら、もう少しだけ
「おはよう。気分はどうかな?」
が、それを今すぐに聞く訳ではない。 ひとまずはウィットの効いた
……あ、そうだ。あんな目に会っていたのだから、表面上がどうであれ心はボロボロだろう。 だから威光を精神安定に全振りしてから発光しないギリギリの出力にしておこうか。それと清廉な肉体のセラピー効果と言祝の聖言の精神を癒やす効果に期待して、優しい言動を心掛けてみよう。
「……あな…た……は…」
「あぁ、俺は――」
「あなた…が……、たすけ…て……くれ…たん………ですよね…?」
…………これは予想外だな。覚えている…のか?
「…なんでそう思ったんだい?」
「そ…の、こえ……と…。…やさ…し…い……ふん…いき………が……、わ…たし……に…ふれて……く…れた……ひと…に…。…そっく…り……で…した……か…ら」
「…………」
覚えている…という事は。自身が経験してしまった悪夢すら……覚えているという事に他ならない。 それは…なんて…、残酷な事なのだろうか。
俺が何を考えているのか分かったのか、少女はぎこちなくも
「だ…いじょ…うぶ……で…す…。もう…すぎ…た……こと……ですし……、…な…によ…り……あな…た…に……た…すけ…て……もら…い……ま…した……から…」
…………………………。
どれほど強い子なのだろうか。どれほど優しい子なのだろうか。 言葉にするのも
あぁ……なんて強いのだろう。あぁ…………なんて、優しいのだろう。
「………………?」
「……ねぇ、君の名前はなんて言うのかな? 」
「……? …
「……姫野 聖ちゃん」
「…なん…で…しょう……か…?」
教えた名前を早速口にする俺に不思議そうな顔をしながら目線を合わせてきた姫野ちゃんのその瞳を見つめ、想いの
「君を救わせてくれて、ありがとう。 生きていてくれて……ありがとう」
姫野ちゃんは俺の紛れもない本心からの言葉を聞き、何を言われたのか理解出来ていないのか、ぽかんとした顔をしていた。
しかし一拍遅れて理解したのか、顔を歪ませて両手で顔を覆って背中を丸め、布団へ顔を押し付けた。 その姿を見た俺は背を向けながら、俺が出せる出来る限りの優しい声で彼女に告げる。
「…俺はタバコを吸ってくるからさ、この部屋でゆっくりしててよ」
吸えもしない、吸った事もないタバコを吸う為に、押し殺した声で泣いている少女を置いて玄関から外へ出る。
やりきれない思いと、矛先の無い激情を抱えたまま。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます