第2話 ようこそ新世界
「ただいまー…っと」
築42年のそこそこ雰囲気のある二階建てのアパート。そこに俺は住んでいる。
ドアを開けると、見慣れた光景が目に飛び込んで来る。男の一人暮らしにしては片付いている部屋。水切り棚で乾かしている皿が目立つ台所。黒い点がポツポツと目に付く蛍光管。正真正銘、我が家である。
そんな意味不明な感傷に浸っていると、ふと時計が目に付いた。…………1時!?
「風呂……は、起きてからでいいか。面倒だし」
独り言を呟きながら寝巻きに着替え、歯ブラシとコップを持って台所へ向かう。
歯を磨いている間は手持ち無沙汰なため、なんとなくスマホを開いてスクロールする。適当に流し見ていると、ある所でスクロールする指が止まった。 ……「転生したら王族でした〜血筋チートと家柄チートで楽勝です〜」か。 懐かしいな…、確か中学生の時にこういうのを読み漁ってた時期もあったっけ。
…………週末、読んでみようかな。 ……ん?あ!?涎が歯ブラシから垂れて指についたッ…!
歯も磨き終わりトイレにも行ったので後は寝るだけ。 布団に入って、スマホを充電する前に連絡先を開いてみる。1番上には母さんの、2番目には妹の名前が、3番目には……父さんの名前がある。有給でも使って久しぶりに帰ろうかね。
そんな事をふと思いながらスマホの電源消して充電し、横になって瞼を閉じる。
「何か高いやつでも買っていこうかな……」
その呟きを引き金にしたかのように急速に意識が遠のき、ぬるま湯に浸かったような心地よい感覚に身を任せた。
『進化の準備の完了を確認。対象 : 天津 誠哉 の種族は 種族 : 人間 から 種族 : 聖人 に進化します』
『進化に必要な時間は約720時間です』
『進化を開始します』
意識が
「やっべぇ遅刻!!?」
心臓がキュッと握り締められたみたいな感覚をよそに、思い切り布団を撥ね飛ばして寝巻きを脱ぎ捨てる。そしてハンガーに掛けておいたスーツを取り、急いで着替え始めた。
風呂に入る時間は無い!飯…は行きのコンビニで適当に買う!時間はー…7時52分!?マッズイ…!!
ドタバタと出勤の準備を整えて、玄関の扉から転げ出るように外へと飛び出し……目の前に広がる異様な光景に思考が停止した。
道路では電柱に車が衝突していて、燃え尽きたかのように真っ黒焦げになっている。
周りの住宅には
遠くの山には馬鹿みたいにデカい鳥のような化け物が飛んでいて。
遥か上空には空間自体に刻まれたかのような巨大な亀裂が存在している。
コレは……なんだ? 悪夢なのか?寝ぼけて幻覚でも見ているのか、俺は…?
目の前で広がっている光景に言葉を失い呆然と立ち尽くしていると、階段から何かが上がってくる気配を感じ、反射的に視線を向けた。
乱暴な足音。不規則な歩調。時折聞こえてくる「ぐぎ」や「げげ」という声。何か重そうな物を引き摺っているような音。鼻に突き刺さるとんでもない悪臭。それらが嫌な想像を掻き立てる。警戒で全身に鳥肌が立つような感覚が走る。 姿が見えるまであと3秒…2秒…1……。
そうして全体像がはっきりと視界に映り込んだ。
全身の肌の色は緑色で、背筋が曲がって前傾姿勢になっている事により
見たことも無い化け物。現実に存在していてはいけない怪物。知らない筈のその生物の名前が、無意識のうちに口から
「ゴブ…リン……?」
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『異世界との同調が開始してから30日8時間7分40秒が経過しました』
『現時点での異世界との同調率は1.47%です』
『特殊称号 : 勇者 は獲得されていません』
『特殊称号 : 賢者 は獲得されていません』
『特殊称号 : 剣聖 は
『特殊称号 : 聖者 は 天津 誠哉 が所有しています』
『特殊称号 : 騎士 は獲得されていません』
『特殊称号 : 魔王 は アルハ=マオルタ が所有しています』
『特殊称号 : 竜王 は レンドハルテ が所有しています』
『特殊称号 : 獣王 は獲得されていません』
『特殊称号 : 死王 は ノーフェス=ラトゥ が所有しています』
『特殊称号 : 人王 は獲得されていません』
『ワールドクエスト ルートα 《星は廻り、人も廻る》 の進行度は0%です』
『ワールドクエスト ルートβ 《魔よ吠えろ、星を覆え》 の進行度は5%です』
『ワールドクエスト ルートγ 《星の終焉、時代の終わり》 の進行度は0%です』
『皆様の選択の結果を尊重します』
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