第6話 奴隷願望

「今何時だ〜?」


 学校が休みの土曜日、『今何時だ?』と思う頃にはもう11時ぐらいだろう。毎週毎週こんなものだ。


 特に今週は色々なことがあった。親友の死……


 親友が変なのを遺して逝ってくれたおかげで寂しい思いはあまりしていない。


 寝返りをして体を起こそうと思った時だった。知らない女の子がいるベットの下ですやすやと寝ている。


 ボロボロの服、謎の首輪、謎の紙ををもって人の家で寝ている。


 数秒間の硬直。そして理解する。


「また変なのが増えたのか……」


 つい言葉を漏らすとゆっくりと目が開く。


 やはり顔立ちは美しい。そしていつもの如く女だ。どれだけ允は女が好きだったのか……


 あの変態を思い出し予想は着く。


「──ご、ご主人様……?」


 そっち路線か〜なるほどね。


 首輪、服装から考えるに奴隷系の人だろう。『無知な奴隷に愛を注ぎ込み日常として堕としてやりたい』とか言ってたしな。


「ご主人様……こ、これを」


 手渡された一枚の手紙。そこにはここの住所が書かれており、しっかりと僕の名前が書いてある。


れいを頼む。まこと


 だったコレだけが書かれた紙だった。また面倒な者を寄越して来て……


 どうしようかと悩んでいるとお腹のなる音が聞こえてくる。


「飯にでもするか……?」


 どうやら親は出掛けているようで誰もいない。とりあえずラーメンでも茹でる事にした。


 辺りをキョロキョロと見回し落ち着きがない。どこか子供のような感じがする。


「ほら、食え」


 茹でたてのラーメンを置いてやると目を輝かせる。箸を手に取り勢い良く口まで運ぶ。


「っあっち!」


「ほら、ティッシュ使えよ」


 口周りを吹き、今度はちゃんと息をふきかけ、冷ましてから口に入れる。


「美味いか?」


「美味しい……です!」


 何故かほっこりとしてしまっていた。それどころでは無い。


 彼女どうするか、外に追い出す訳にも行かない。


「ご主人様は食べないのですか……?」


 言われて気づき、麺をすする。


 食べ終わり食器を洗おうとするとすると、


「ご主人様! 私が働きます!!」


 そう言って立ち上がり、皿を下げてくれる。


 特に皿を割るなどの事は起きずに洗ってくれた。ドジで無いのは助かる。


 允の遺言通りにするならば預かってあげるべきだが、死んでから生まれた思想の具現化だ。あの手紙を書くことは出来ない。


「ご主人様……? 大丈夫ですか?」


 ……捨てれるわけないじゃねーかよ!


 ***


 ここでの生活をしっかりと教えこみ、絶対に俺以外に見つかってはいけないと教え込んだ。


「親が帰ってくる前に風呂とか済ませておこう」


「は、はい……」


 ***


 風呂場を教えてバスタオルを出しておく。裾が破けたりしているボロボロの服はとりあえず洗っておく。


 長い包帯に気づいたが、これにはあまり触れてはいけない気がする。


「奴隷としての思想か……」


 何の服を着せようかと悩んでいると、扉越しにもはっきりと悲鳴が聞こえる。


 どうしたかと思い無意識に扉を開ける。風呂の扉ではない為、安心していたが、向こうもどうやら風呂の扉を開けて逃げたらしく鉢合わせる。


 何秒か固まった後に何事も無かったように同時に扉を閉める。


「ど、どうした?」


「み、水が思ったより冷たかったです……」


「左の取っ手を手前にやって、待ってればお湯になるから水避けて待ってろ」


「……あっ、暖かくなりました」


「よ、よかった。あと、タオルと何か服置いとくから着ていいぞ」


 今ので完全に理性が吹き飛んだ。今夜が心配だ。


 ***


「──お、お風呂上がりました。」


 胸元には名前が刻まれている。


 僕が持ってる服で男女変わりないのはこれしかないからな……


「ごめんな? それしか無いんだよ」


「い、いえ! ご主人様から貸してもらったものです、大切に使わせていただきます!」


 少し大きかったなと思いながら胸元のチャックを見る。もう少し閉めた方がいいと思う。


 自分視点から見ると閉まってるように見えるが、実際は全然閉まっていないのが学校ジャージの良いところ。


 どこか允みたいな感想を考え始めてしまったな。元々気は合うからな。


 そんな事を考えてる暇は無い。


「ただいまー」


 玄関から響く声、親が帰ってきた。この部屋に来たら終わりだ。


「夜はおにぎりとか持ってきてあげるからどこかに隠れといてくれ」


 部屋を出て何事も無かったかのように夜を過ごす。風呂に入り、夕食を食べ、おにぎりを作り部屋に戻る。


 ***


「レイ……? どこに隠れた? 俺だから出てきていいぞ?」


 布団がモゾモゾと動き出しひょっこりと隷が顔を出す。ずっと布団の中に隠れていたようで顔が赤らみ少し汗ばんでいる。


「……? あっ! ご、ごめんなさい!」


「え? 何が!?」


「勝手にお布団に上がり込んでしまって! ごめんなさい!」


 そんな事では怒らないが、逆にありがたいなど思わなくもな──


「──コホン、別に気にしてないよ。それよりほら、おにぎり持ってきたから食べな?」


「あ、ありがとうございます……!」


 黙々とおにぎりを頬張っていく。おにぎりは一個、二個と消えていった。


 リビングの電気も消える頃、流石に眠たくなったので隷を見る。


 貸した漫画を面白そうに読んでいる。


「そろそろ寝るぞ? ベット使っていいから」


「えっ!? いや、でも……」


 抵抗される前に毛布を敷き、電気を消し、床に横たわる。


「……どうして、そんなに良くしてくれるのですか……? 私ほ奴隷ですよ?」


 確かに允はレイを奴隷として扱って欲しいのかもしれない。


 好きなように使って、こき使われて、下に敷かられ、苦しみを味わってみたかったのかもしれない。


 けれど、いくら允の思想の一つで、望んでいたとしても絶対にそんな事はしたくない。


「……僕は允の親友だからね、そんな事は出来ない」


「……やっぱり、ここに来て正解でした。『奴隷とは慈愛と正愛をもって犯す者だ』って、どこかの言葉が深く心に残っています」


 なんつー思想だよ!


『奴隷は正愛を持って接しろ。慈愛を持て。それの無い奴隷はただの玩具となる。何が楽しい? やっぱり強姦は良くない。悪く無いとも思うがな!』ふと思い出す。


 これで良いんだよな允。


 バサッ、と布団が音を出し、自分に被さる。


 まだ暖かい感触がある中、耳元で声がする。


「ご主人様が床で寝てるのにベットで寝る奴隷がいるでしょうか! 私も床で寝ます!」


 いや、違う。俺がもたないから床で寝てるんだ!


 距離が近い。布団の中が暑く感じる。二人の体温が一つの布団で混ざり合う。

 静かな夜。うるさい鼓動。熱い体。


 これは允の思想だぞ!? アイツが残した者に手を出す訳にはいかないだろう!


 寝息に変わったと思い、後ろを見る。


 首輪が寝るのには邪魔そうだ。取ろうにも取り方が分からない。何となく允の名言から予想は着くが実行は難しい。


 そっと手を頬へ伸ばす。触れかけた所で我に返り、すぐさま寝返り目を閉じる。

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