第6話 報告

 村長宅に着くなり、玄関ドアを『コンコンコン』とノックする。すると家の中から『はぁい』と声がして、村長が玄関ドアを開け出て来た。


「これはこれはユリウスさん。ゴブリン退治が終わった報告ですかな?」


 ――あれっ? 村長ってこんな感じの顔だったっけ?

 ゲーム画面と生では違和感あって当然か!


「はい。ゴブリン退治の報告をしに来ました」


 ゴブリンが根城にしている洞窟を発見したが、色々あって退治してこなかったことを正直に話した。

 さっきまで穏やかな表情をしていた村長だったが、ゴブリンを退治してこなかったことを知ると表情が一変。さらに、語気も強くなる!


「この村を襲わない? あんな醜い奴らの言葉を真に受けたとは信じられん。どう考えても、その場しのぎの嘘に決まってるでしょ。まさか、本当はゴブリンにビビって逃げて来たんでは――?」


 見た目だけで迫害されているとゴブリンの長が言っていたが、どうやら本当のようだな。

 俺がコケにされたからか、ルティがブチギレて村長に怒鳴る。


「おいジジイ。これ以上ユリウス様ばコケんしてみろ。ぶち殺すぞ」

「まぁ落ち着け、ルティ。依頼を達成していない俺が悪い」


 俺のことで自分のことのようにキレてくれるとは嬉しいじゃないか。

 ――けど今は、感傷にひたる場合ではない。俺はブチギレているルティをなだめ、村長に謝罪した。


「当然ですが、依頼を達成してないので空き家の件は無かったことでいいですよね?」

「……はい」



   ◇◇◇



 俺は『ミソロジーワールド』では有名人。そのため、俺が作ったクラン(チーム)に加入したいという申請が山のようにあった。

 理由は簡単で、有名人と知り合いだと自慢ができる。周りからの評価も上がる。おこぼれが貰えるなど利用価値があるからだ。

 まぁこれは何の世界でも同じことが言えるだろう。


 全ての人とは言わないが、ほとんどの奴は甘い汁を吸うために近づいて来る――。

 周りからチヤホヤされるから、俺はこの事に気付かずクラン加入条件をクリアしている者を来るもの拒まず加入させてた。

 そのせいで、クランのメンバーは常に定員上限である百人!


 大人数だとメリットも多いが、デメリットも多い。特に、最大のデメリットと言えるのが人間関係だ――。

 意見の食い違いで揉めたり、派閥が出来たり、出会い目的の奴がいたりと問題は様々。

 当然、問題が起こるたびにリーダーの俺が仲裁に入る。

 俺はただ楽しくゲームをしたかっただけなのに、度々起こるメンバー同士の揉め事が嫌になって、ゲームをするのが段々と億劫おっくうになった……。

 全てが嫌になった俺はクランを解散して、『ミソロジーワールド』をプレイするのを止めた――。


 それから半年が経った頃、久々に『ミソロジーワールド』をやりたくなり再開する。

 心機一転してプレイするに当たり、ソロプレイでやることにした。

 理由は、人間関係のいざこざに巻き込まれたくないからだ。


 そのためには、なるべく知り合いに出会わないようにしないといけない。そこで、クランを構えていたレムリア大陸とは別のアトランティス大陸に拠点を置くことに決めた!


 アトランティス大陸には九ヶ国あり、その中のどの国に拠点を構えるかだが……やっぱりプレイヤー数が少ないところがいいだろう。

 そう思って目を付けたのが、小国のテペウ王国!

 小国と言っても王都などの大きい都市はプレイヤーが多い。そこで、プレイヤーがいなさそうなポポル村に目を付ける。


 『ミソロジーワールド』は発売から十数年経つ。そのため、新規ユーザーも少ない。だから、俺のことを知っている人も少ない。

 ――これがポポル村を選んだ最大の理由だ!

 で、ポポル村の空き家を借りる条件が、ゴブリン退治だったというわけだ。



   ◇◇◇



 依頼未達成だから拠点にする予定だった空き家の話は無くなった……。

 だが、話が流れて良かったのかもしれない。

 ポポル村の空き家を借りようとしていたときは俺一人だったが、今はジズゥたちが居る。この空き家に四人は狭すぎるからな。


 報告が済んだ俺たちは村長宅をあとにした。

 村の出入り口に向かって歩いていると、余程ムカついていたのかユニィが不満を口にする。


「マジあのハゲムカつくんだけどォ」


 いや、ハゲてはいなかったけどな……。


「ユリウス様ぁ。あがん(あんなに)ムカつく奴にヘコヘコせんでよかでしょ?」

「二人とも、落ち着け。さっきも言ったが、依頼を達成していない俺が悪い」

「そうかもしれんちゃっけど……」

「だろう? それに、非を認め謝るのはカッコ悪くはないぞ。むしろ、非を認めず暴力で解決する方がカッコ悪い」

「……」

「俺に非があるのにそれを認めず暴力で解決したとする。お前たちはそんな主君を誇りに思うか?」

「確かに何でもかんでも暴力で解決するってのはダサいっすね」

「あと、俺は横着な奴には横着に。敬語で来る奴には敬語で。と、相手の態度と同じように接するようにしているから、別にヘコヘコしていた訳じゃないぞ」


 俺の考えをユニィとルティに説明し、落ち着かせた。

 ジズゥはというと、もう冷静になっている。さすが、大人だ!


「ユリウス様。これからどうします?」


 ジズゥにどうするかと聞かれたが、特にこれといった目的が無い……。

 ――さて、どうしたもんか?

 辺境の地でスローライフ生活ってのもいいかもなぁ。だが、ジズゥたちがいるから俺のわがままに突き合わせるわけにはいかんよな。


 やっぱりこういう時は、大きな街に行くのが定番か!

 どうせなら、王都に行ってみるか。何か目的が見つかるかもしれんし!


「そうだな。王都キニチに行くか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る