第4話 手合わせ

 俺たちはゴブリンの洞窟をあとにし、村長に報告するためポポル村に向かう。

 その道中、ジズが俺に問いかけて来た。


「ゴブリンたちを退治しなくて良かったのですか?」

「あの目は嘘をついているように見えなかったからなっ。それに嘘だった場合は一匹、いや一人残らずこま切れにすればいいさ」

「それもそうですね。そのコートに刻まれている『生殺与奪』という文字はユリウス様のためにあるような言葉ですからね」


 プレイ時間が5千時間達成したときの特典が『好きな文字を装備品に刻める』というものだった。そこで俺は、この真紅のコートに『生殺与奪』の文字を刻んだ。

 なぜ、生殺与奪にしたのか? それは、中二病的発想でカッコイイと思ったからだ。正直、今は後悔している……。


「そうだ! ジズに聞いておきたいことがある。ゴブリンは害獣と思うか?」

「いえ、見た目が違うだけで人や獣人などと変わらないと思います。現に言葉を話し、集団で助け合いながら暮らしていましたし」

「そう、見た目が違うだけで人や獣人などと変わらないんだよ。だから、ゴブリンを人と同等の種族と判断し見逃したわけだ。俺は生まれたところや種族、皮膚の色や目の色で人の価値を決めるレイシスト(差別主義者)みたいなクソ人間にはなりたくないからな」


 これは、俺の好きなパンクバンドが歌っていた歌の影響が大きい。


「素晴らしいお考えです。さすがはユリウス様!」

「話は変わるが、少し手合わせしてくれないか?」


 この世界に転移してから戦闘をしていないので、自分の強さがどの程度なのか全く分からない。だから、自分の強さを知っておく必要がある。

 ――なぜなら、生死に関わるからだ。


「えっ! 手合わせ……ですか? なぜです?」

「どうやら戦い方も記憶障害のせいで微妙なんだ。ゴブリンとの戦いで感覚を思いだせると思っていたが、結局ゴブリン退治をしなかったからな。だから今のうちに感覚を思い出しておきたい」


 少し困惑した様子でジズが答える。


「私でユリウス様の相手が務まるか分かりませんが、胸を借りるつもりでやらせてもらいます」


 こんなこと言ってるが、手も足も出ずボコボコにやられたらどうしよっ……。

 『えっ! こんなに弱かったなんて。お前みたいな奴を主君と呼んでいたなんて一生の恥』とか思われるんだろうな。


 俺たちは手合わせをするために、少し開けた場所に移動する。


「じゃあ、始めようか」

「はい。最初から全力で行かせて頂きます」


 ――全力? 手合わせなんだから軽い感じでいいのに……。

 俺は慌ててジズに確認する。


「ちょっと待てっ。本気でやるつもりか?」

「もちろんです」

「本気でやるとここら一体の地形が変わるかもしれん。手合わせなんだから、軽くでいい。軽くでっ」

「了解しました」

「では、始めよう」


 ジズの武器は槍だからリーチがある。俺は剣だから距離を取られると不利だ。ここは定石通り接近戦に持ち込むか。


 ジズの懐に入るべく、距離を詰めようとする。――が、これを三連突きで阻止された。

 ジズの攻撃が見える。見えるぞ! これなら行けそうだ。

 再び距離を詰めようとジズの懐に飛び込む。――だが、今度は五連突きで阻止された。

 ヨシッ! 問題なくジズの槍捌きが見える。イメージ通りに身体からだも動く。確認作業は終わりだ。ここからは、ギアを上げていくぜ!


 さっきよりも高速でジズの懐に突っ込み斬りかかる。

 スピードを上げたことで対応が遅れたジズは突くことが出来ず、槍のの部分で俺の斬撃を受け止めた。

 ――懐に入った俺は、さらに連撃をかます。最後の一撃がカスっただけで、他の攻撃は全て受け流された。


 やっぱり、ジズは強い! そして、俺も強い!

 あとは、この世界でどの程度の強さなのかを知る必要がある。どこかで強いと評判の奴と手合わせして確かめないとな。

 俺は距離を取り、ジズに話しかける。


「いやぁ、強いなぁ」

「いえいえ。一撃も喰らうつもりは無かったんですが、最後に一撃喰らってしまいました。さすがはユリウス様」

「傷をつけるつもりはなかったんだが、つい力が入りすぎてしまった。すまん」

「このくらい大丈夫ですよ。ポポル村に行けば、ユニコーンが治してくれますから」


 身体の動かし方の確認は終わったから、次は魔法だ!


「剣の使い方は思い出したから、次は魔法を試したい。一発打っていいか?」

「えっ! 魔法ですか? ユリウス様の宇宙魔法は強力だから、魔力を抑えて弱めの魔法で試してくださいね」


 魔力を抑える? バトル漫画の気を抑えるみたいな感じでやればいいのかな?

 さて、何の魔法を使おう? 弱い炎系のベテルギウスで試すか!


「ベテルギウス」


 右手を突き出し、呪文を唱える。

 すると、突き出した手からミニバンくらいの大きさの真っ赤な火の玉が放出された。

 ――次の瞬間、辺り一面を燃やし尽くす。


 やっべぇ、サッカーコート一面分くらいだが、森が消失してしまった……。

 かなり抑えて魔法を使ったんだが、これでも強かったか……。

 反省よりもまずは、木々に引火した炎をどうにかしないと……。


 魔法を吸い込み無力化するブラックホールという魔法があるが、引火した火は魔法じゃないので吸い込むことが出来ない。なら、水系の魔法で鎮火させるか?

 鎮火の方法を模索していると、ジズが笑いながら話しかけて来た。


「派手にやってしまいましたね。鎮火は私がやりましょう」

「じゃあ、任せる」


 自信満々にジズが鎮火をすると言ってきたので、任せることにした。


「レンジストーム」


 ジズが呪文を唱えると、暴風が吹き荒れ、『メラメラ』と燃え盛っている炎が消えた。さすが、風使いの召喚獣だけはある。簡単に鎮火した。


「お見事」

「いえいえ」


 俺は素直な気持ちをジズに送った。

 目的だった魔法の試し打ちが終わったので、俺たちはポポル村に向かう。

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