第3章78話:防戦と他者視点

だが。


「あら。偉そうな口を叩いた割に、この程度かしら?」


とネアはせせら笑う。


ネアは俺の攻撃を直撃したにも関わらず、よろめきもしなければ、身じろぎ一つしない。


まるでダイヤモンドを殴りつけたような手応てごたえの薄さだ。


「これが、精霊と人間のあいだに横たわる格差よ」


次の瞬間。


ネアが拳が俺の横腹よこばらを打つ。


「ぐはっ!」


俺はうめき声をあげた。


さらにネアの蹴りが炸裂する。


蹴りが、拳が、俺の身体に叩き込まれる。


防ぐ。


いなす。


殴られる。


また防ぐ。


防ぐ。


蹴り飛ばされる。


……防戦一方ぼうせんいっぽうである。






<兵士視点>


ネアとアンリの戦いを、騎士団の兵士たちが見守っていた。


ほとんどの兵士は、精霊の善戦に熱狂していた。





「すごい」


「さすがネア様!」


「あんなに強かったアンリを、圧倒しておられる!」


「やはりネア様は最強です!」


「どうだアンリ! これがネア様の御力おちからだ!」


「あああああ、ネア様!! ネア様!!」





応援する者。


熱狂する者。


感涙する者。


両手を挙げて狂乱する者もいれば、両膝りょうひざをついて祈りを捧げる者もいる。


いずれにせよ兵士たちは、精霊ネアの優勢に歓喜していた。


ちなみに、さきほど仲間が、ネアの投槍ジャベリンによって消し飛んだことは、兵士たちのほとんどが気にしていない。


精霊のやったことならば、たとえ仲間の虐殺であっても全肯定ぜんこうていである。


一方。


そんな中、冷静に状況を見つめる者もいた。


たとえば一人の男性騎士は、ネアよりもアンリの耐久力に驚愕していた。


(ネア様の攻撃を受けても、持ちこたえているだと……!?)


通常、精霊の打撃を食らって即死しないなど有り得ない。


神殿騎士団を相手にたった一人で無双していたアンリであるが、精霊を相手にしてもある程度の戦闘が成り立っているさまは、ヒトの常識を超えているように思える。


アンリとは何者なのか。


本当にただの人間なのか、男性騎士は真剣に疑い始める。


そして。


そんな兵士や騎士に混じって、複雑な心境で二人の戦いを見守る者がいた。


アレクシアである。


(私は……そうか。アンリに負けたのか)


精霊ネアに操られていたときのことを思い出す。


自分がアンリに剣を向け、あっけなく敗れてしまったことを、アレクシアは覚えていた。


(そして、今度はネア様とアンリが戦っている……アンリの劣勢に見えるが、果たして本当にそうだろうか?)


アンリは、ネアからの激しい殴打を食らい、着実にダメージを負っているように見える。


しかし、どことなく余裕がある気配もあった。


(……アンリ)


心の中で、アレクシアはアンリの名をつぶやく。


アレクシアには精霊ネアへの忠誠心があった。


しかし、現在は、少し抵抗がある。


それはやはり、さきほど自分の意思に反して、あやつ人形にんぎょうにされたからだ。


神殿国のたみにあってはならない感情だが……


アレクシアが応援する気持ちは、ネアではなく、アンリのほうに傾いていた。

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