第3章73話:vsアレクシア

そのとき。


「!!」


迅雷じんらいのごとく疾走してくる人影ひとかげがあった。


アレクシアである。


彼女は、疾駆しっくしながら抜き放った剣を振りかぶる。


その剣には紫色の魔力が込められている。


あまりに魔力の濃度が濃すぎて、まるで稲妻いなずまのような光が刀身にまとっていた。


あっという間に迫るアレクシアの剣。


俺はそれを、素早いバックステップで後退するように避けた。


眼前を、アレクシアの斬撃がかすめていく。


凄まじい斬撃だ。


その斬撃の余波で、周囲に強烈な風圧が巻き起こる。


「驚いた。いきなり斬りかかってくるとはな」


と俺は告げる。


なんとなく、アレクシアは不意打ふいうちを好まないような気がした。


やはりネアのあやつ人形にんぎょうになったことで、アレクシアの持つ実直じっちょくさも失われているのだろう。


「ア、アレクシア様……」


と男性騎士がつぶやいた。


「下がっていろ。この男は、私が殺す」


とアレクシアが、周囲の者たちに一瞥いちべつもせずに告げる。


その言葉で、周囲の騎士や兵士が、後ろに下がった。


俺とアレクシアの1対1の状況になる。


アレクシアが俺を厳しい目つきで見据みすえてくる。


色を失った目。


しかし、みなぎる戦意と殺意が強風きょうふうのごとく吹き付ける。


俺はアレクシアを見つめ返し、静かに思う。


(アレクシア……お前は俺を助けてくれようとした。ゆえに、俺はそれに報いよう)


彼女を殺さず、無力化する。


俺のサイコキネシスならば、その程度は自由自在だ。


「いくぞ」


アレクシアが剣を構える。


次の瞬間。


アレクシアが地を蹴り、斬りかかってきた。


俺はアイテムボックスから、ミスリルソードを取り出す。


これはフィオリト岩原がんげんで、ミスリルを使って製作した剣だ。


そのミスリルソードにサイコキネシスを込めて、強度を高めた。


そして。


「ふっ!!」


アレクシアの斬撃に、ミスリルソードの斬撃をあわせた。


アレクシアの剣と、俺の斬撃が衝突する。


激しい音が鳴って一瞬、つばぜり合いのごとく硬直したかと思うと……次の瞬間、アレクシアの剣が押し返されるように弾かれた。


「なっ!!?」


アレクシアが驚愕の声をあげる。


たたらを踏んだアレクシア。


体勢を崩して膝をつく。


周囲にいた女性騎士がつぶやく。


「そんな馬鹿な……」


「アレクシア様の剣を、跳ね返した……だと!?」


と男性騎士も驚きの言葉をこぼしていた。


アレクシアの剛剣ごうけんを跳ね返すこと――――


もちろんそれは、全てサイコキネシスによる芸当げいとうではあるが、周囲の者には技術と力で成し得たことに見えただろう。


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