第3章70話:精霊の命令
精霊ネアの姿は見えない。
しかし、俺たちから10メートルほど離れた場所。
そこに光のオーブが現れる。
あのオーブが、精霊なのだろう。
「アレクシア」
「はっ……!」
アレクシアが、返事をしながら、ひざまずく。
ネアが冷ややかな色を含ませた声で告げた。
「アンリを殺しなさい。そう、人づてに命じたはずよ」
「そのことについて、
とアレクシアが言って、続けた。
「このアンリという男は、一概に悪とは言えません。アンリは、私の知り合いである少女が、魔物に襲われているところを救いました。もし彼が助けてくれていなければ、少女は死んでいたかもしれません」
「……」
「アンリは、自分が勇者に嵌められ、さらに殺されかけたと主張しています。……もしかするとネア様も、さきほどの会話をお聞きになっていたかもしれませんが、私は、彼の主張を無視することができません。もし彼が悪人ではないのだとしたら、討伐するのはさすがに――――」
「言いたいことはわかったわ。でも、彼の善悪については、関係ないの」
とネアが、アレクシアの言葉をさえぎった。
ネアは続ける。
「アンリは、この世に災いをもたらす存在よ。彼が神殿国に入国したときは、おぼろげな予感でしかなかったけれど……こうして
ずいぶんな言われようである。
この世に災いをもたらす……か。
そんなふうに言われる理由があるとしたら、やはり、サイコキネシスの存在か。
精霊が俺のサイコキネシスの能力を知っているわけではないだろうが、おぼろげながら、力の存在を感じ取っているということだろう。
アレクシアは困惑しながら尋ねた。
「い、いったいどうして、そのように思われるのでしょうか」
「精霊の直感的なものだから、あなたに説明してもわからないわよ」
「ですが、アンリは――――」
「さきほどから、私の意に反する受け答えばかりね。あなたは神殿国の住人。ならば、精霊である私の指示にしたがっていればいいのよ」
冷たく言い放った精霊ネア。
次の瞬間。
光のオーブから、糸のような細い
その光芒はアレクシアの額に突き刺さるように命中する。
アレクシアが目を見開き、やがて、目がうつろになっていく。
「もう一度言うわよ。アンリを討ちなさい」
「……はい」
とアレクシアが突然、ネアに対する反論をやめて、肯定しはじめた。
まるで自分の意志とは思えない、気迫の失せた声音だ。
ふむ、なるほど。
(洗脳の能力か……)
さきほど放たれた光芒。
あれによって、アレクシアが意志を喪失し、ネアの
さらに精霊が宣言する。
『聞きなさい。神殿騎士団の
決して張り上げた大声ではないのに、遠くまで響き渡るような、浸透していく声の波。
それは、俺やアレクシアに向かって放たれた言葉ではなく、神殿騎士団に向けてのものだった。
精霊の声が命じる。
『私はネア。神殿国を治める精霊よ』
次の瞬間。
突如、アレクシアが動き始め、俺を蹴り飛ばしてきた。
「む……ッ」
俺は防御が遅れ、数十メートルほど吹っ飛ばされる。
雑木林から弾き出され、コルデリオ平原へと躍り出てしまう。
『ここに、神殿騎士団へと
そう、精霊が命ずる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます