第3章68話:待ち構える者

俺はコルデリオダンジョンを出たところで、立ち止まった。


(これで神殿国での用事は済んだ)


お目当てのアイテムボックスは無事に入手することができた。


もう神殿国でやるべきことはない。


あとは出国するだけだ。


(神殿国の連中に絡まれても面倒だ。さっさと国を出てしまおう)


俺は神殿国から命を狙われている。


衛兵や兵士に見つかる前に、国を出たいところだ。


とりあえずフィオリト岩原から出て、刃竜に会いにいくか。


そう思って歩き出した……が。


コルデリオ平原。


広がる土と草原のうえに、無数の兵士たちが待ち構えていた。


神殿国の兵士たちだ。


武装している。


騎士とおぼしき姿もある。


こいつらは……


(俺を追ってきたか)


と俺は推定する。


神殿国の連中に絡まれる前に、さっさと出国したかったのだが……遅かったようだ。


「貴公」


と一人の男性騎士が前に出てくる。


「アンリ・ユーデルハイトとお見受けするが、間違いないな?」


どうせ確信があってここにやってきたんだろうに、男性騎士がわざわざ確認してくる。


俺は堂々と答えた。


「ああ、いかにも俺が、アンリ・ユーデルハイトだ」


「……勇者殺しめ」


と男性騎士が軽蔑けいべつの視線を向けてきた。


彼は告げた。


「勇者を殺害したアンリ・ユーデルハイトを討つことは、ルドラール王国の聖女と精霊の御意思ごいしである。よって、これより貴公を討伐する!」


「くくく」


と俺は笑った。


以前にも同様のことがあったな……と愉快な気持ちになる。


ルドラール王国の騎士だろうが、神殿国の兵士だろうが、俺にとっては大した敵ではない。


本当は見逃してやるつもりだったが……


立ちはだかるなら、振り払うまでである。


「待て!」


と、そのとき女の声が挙がった。


声のしたほうに視線をやると、そこにいたのはアレクシアであった。


どうやら、俺を討伐する部隊に参加していたようだ。


アレクシアが前に出てくる。


「コーヘイ……。貴殿が、アンリだと? いったいどういうことだ?」


アレクシアは、信じられないような顔をしていた。


俺は答えた。


「どうもこうもない。俺がアンリだ。コーヘイというのは、昔に使っていた名だ」


「馬鹿な……」


アレクシアは唖然あぜんとしている。


そのとき、騎士が尋ねた。


「アレクシア様。アンリとお知り合いなのですか?」


「……ああ」


とアレクシアはうなずく。


さらにアレクシアは言った。


「すまない。彼と二人きりで話したい。少々、時間をいただけないだろうか?」


「し、しかし……」


「頼む」


とアレクシアが騎士に懇願した。


騎士をたじろぎ、やがて、うなずく。


「わ、わかりました。しかし、相手はアンリです。お気をつけて」


「ああ」


騎士と話が終わったアレクシアが、こちらを向く。


彼女は告げた。


「すまない。コーヘイ……いや、アンリ。少し話そう」


「……いいだろう」


俺は肯定する。


そして、兵士たちとは少し離れた場所にある雑木林に、アレクシアと二人で入った。

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