第3章64話:アレクシア視点

<アレクシア視点>


康平こうへいを見送ったあと、アレクシアは裏庭にふたたび戻った。


剣の一人稽古ひとりげいこをおこなおうとする。


しかし、そのとき。


空からアレクシアのもとに、ワシが飛んできた。


足に手紙をつかんでいる。


アレクシアは鷲から、その手紙を受け取る。


(神殿からの手紙か……)


アレクシアは手紙を開いた。


中には以下のようなことが書かれている。




『勇者殺しであるアンリ・ユーデルハイトが、神殿国に入国した』


『これを討伐するべく、神殿騎士団を動員する』


『精霊よりアレクシア殿にも参加の命令が出ているゆえ、ご準備なされよ』




アレクシアは険しい顔を浮かべる。


(なるほど、勇者殺しが……)


ルドラール王国で罪をおかして追放され、挙句あげくには、勇者デレクを卑劣ひれつだまちによってほうむったとされる……悪徳貴族あくとくきぞく


それがアンリ・ユーデルハイトだ。


「私が出ることになるとはな」


アレクシアは、自分が精霊から直々に討伐作戦への参加を命じられるとは、驚きだった。


なにしろアレクシアは、神殿国の裏の英雄ともうたわれる【聖騎士長】だからだ。


神殿国において最強ともいえる実力を持ちながら、表の人間にはほとんど存在を認知されていない、神殿のかくだま


立場上、よほどの事態がない限り、戦いにおもむくことはない。


今回は、そういう"よほどの事態"であると判断されたのだろう。


他でもない、神殿国の精霊によって。


(ネア様はアンリのことを、よほど警戒されておられるらしいな)


とアレクシアは推定する。


まあ、アンリは勇者すらめて殺したような男だ。


アンリの戦闘能力は高くないと聞いている。……が、狡猾こうかつな策を考えつく知恵や頭脳にはけているのかもしれない。


「誰が相手でも、関係ないが」


とアレクシアはつぶやく。


アンリがどのような人物であっても、ただ圧倒的な力をってねじ伏せるだけである。


――――今回は、精霊からの直々のめいだ。


神殿国に生きるアレクシアにとって、精霊から使命を授かるだけでも、心が熱くなる。


必ず達成しなければ……という気持ちが、胸の内に込み上げる。


「ゆくか」


歩き始めたアレクシア。


かくして彼女は、アンリ討伐へと準備を始めるのだった。

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