第3章63話:出発

「旅人か。見た目からして、それなりに高貴な人間と見受けるが……詮索はしないほうがいいか」


アレクシアの言葉に、俺はうなずいてから答えた。


「ああ。申し訳ないが、素性について語るつもりはない」


「そうか。気にするな。私も素性については、語れないことも多いからな」


アレクシアが応じてから告げた。


「そろそろ戻ろうか。ミリーナの料理が出来上がる頃だろう」


「……そうだな」


アレクシアの言った通り、ミリーナが裏庭へとやってきた。


料理が完成したそうだ。


俺は木剣をアレクシアに返した。


そして家の中に戻る。


料理が提供された。


俺とアレクシアは食べる。


しょせんは子どもの作る料理であり、とても美味しいといえたものではなかったが……


こういうのは、味の問題ではないだろう。


感謝の気持ちは篭っていたので、俺は完食することにした。


さて、食事が終わったら、俺は出発しようとする。


ミリーナとアレクシアが見送りにくる。


ミリーナが言った。


「もうお別れなんて、すごくさびしいです」


さらにミリーナが告げる。


「また近くに来たときは、立ち寄ってください! またお食事を作りますから!」


「……ああ。そのときは立ち寄らせてもらおう」


しかし、口ではそう答えつつ……


次に俺がここを訪れることは、もう無いだろうと思った。


なにしろ神殿国からは目をつけられているからな。


この国でやるべき用事が済んだら、さっさと出国するつもりだし、ふたたび入国することもないだろう。


「よければ王都にも立ち寄るとよい。神殿や王城などで、この紋章を提示すれば、私との面会が叶うはずだ」


そう告げてアレクシアが丸いバッジを渡してきた。


精霊と騎士の彫刻が刻まれた紋章である。


「改めてになるが、ミリーナを魔物から助けてくれてありがとう。……達者でな」


とアレクシアが別れのあいさつをした。


「ああ」


俺はそう短く返して、歩き出す。


マリコ村を出て、ふたたび旅を再開するのだった。



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